『ポワロと私』

(2013/高尾菜つこ訳、原書房、2022.10.30)

 

先週の木曜日(10日)に

四谷での採点の帰りに寄った

新宿の紀伊国屋書店で目にして

購入したものです。

 

ちょっと必要があったので

すぐ読もうと思い

宅配にせず持ち帰ったんですが

それでもその日は読み始められず

その後も何やかんや

細々とあったりして

結局、読み終わるまでに

5日ほどかかっちゃいました。

 

 

著者は

副題からも分かるとおり

テレビドラマ『名探偵ポワロ』で

タイトルロールを演じた

デビッド・スーシェと

その友人でもある

ノンフィクション作家

ジェフリー・ワンセルです。

 

テレビの『名探偵ポワロ』は

まったく観てませんでしたけど

スーシェの演じるポワロが

原作から抜け出してきたくらい

見事なものだったということを

仄聞してはおりましたから

興味深く読むことができました。

 

 

本書では

スーシェが性格俳優として

ポワロをリアルに演じるために

どれくらい気を配ったか

ということが

縷々語られており

興味が尽きませんでした。

 

ポワロを

コミカルなキャラではなく

リアルな人間として捉える

という姿勢は

性格俳優ならではのことかと。

 

ポワロというキャラを捉えるため

演技の方向性を述べるくだりは

一種のポワロ論、

ポワロというキャラクターの

人物論としても読めて

啓発されるところが多かったです。

 

 

また、スーシェは

ポワロを演じるにあたって

原作小説を読んだそうですが

(読み返したのではなく

初めて読んだようですけど)

各作品にふれる際

初出は何で英版は何年刊で

アメリカ版は何年刊、

さらには初刊時の

書評まで引用しており

クリスティー作品論としても

読めるあたりは脱帽ものでした。

 

ドロシー・L・セイヤーズや

マージェリー・アリンガムの

書評を引用している箇所が

出てきたときには

驚くと同時に

嬉しくなったものです。

 

そういうリサーチは

ジェフリー・ワンセルの方が

担当したのかもしれませんけど

この驚きと嬉しさ、

海外ミステリ・ファンなら

分かってくれるのではないか

と思います。

 

 

あと、興味深かったのは

最初から全作品の映像化が

決まっていたわけではないため

1シーズンが終わっても

次の撮影があるかどうか分からず

生活のために他の仕事をせねばならない

イギリスの俳優業の裏側というか

そういうものが垣間見られたところ。

 

レパートリー俳優症候群(p.101)

という言葉は印象的でしたし

人生の長期予定が立たず

「半年より先のことは

 考えないようにしていた

 ――うまく行かなかったら

 いつでも生活を変える

 覚悟があった」(p.151)

というくだりも印象的です。

 

イギリスのミステリ作家で

サイモン・ブレットという人が

俳優が探偵役を務める

チャールズ・パリス・シリーズ

というのを書いてるんですけど

そこに書かれている背景などとも

通ずるような感じがされて

チャールズ・パリス・シリーズに

ちょっと親しみが湧いてきたという

ちょっとした余録もありました。

 

 

テレビを観てなくても

じゅうぶん楽しめる一冊で

索引がついているので

資料としての使い勝手もいいです。

 

欲をいえば

放映日、監督、脚本

ゲスト出演者などのデータを添えた

放映リストがあると

良かったかも。

 

 

また、困るのは

DVD-BOXが

欲しくなっちゃうこと。

 

懐の事情で買えませんが

まあ、買えたとしても

たぶん観ている暇なんて

ないでしょうけどね。( ̄▽ ̄)