(1961/長島良三訳、
扶桑社ミステリー、2022.8.10)
おととい
立川からの帰りに
駅ビルに入っている書店で
見つけました。
立川でも書店に入ったのに
見かけなかったんですけど
見逃したのかしらん。
ある事情から
6年ぶりに故郷に帰ってきた
アルベールという青年? が語り手。
かつて暮らしていた
アパルトマンに戻ってきても
母はすでに亡く
クリスマス・イヴで賑わう街に
繰り出したところ
娘連れの女性に出逢います。
女性は
かつての恋人にそっくりで
惹かれるままに
娘を寝かしつける彼女に付いて
その住まいに行くのでしたが……。
アルベールの過去に
ちょっとしたサプライズが
仕掛けられているので
これ以上、あらすじを
詳しく書けません。
最初の3分の1は
ファム・ファタールとの出会いを描く
いかにもノワールな雰囲気ですが
死体が発見されて以降
目まぐるしく展開します。
もっとも、メイン・トリックは
チョー古典的なトリックなので
ミステリを読み慣れた読者なら
すぐに見当がつくでしょう。
アルベールはなかなか気づかず、
それが不思議なくらいです。
ただし、物語のキモは
トリックの独創性や
騙しのテクニックではなく
アルベールの過去に絡んで
最後に皮肉な結末が
用意されている辺りでしょう。
それとも
出来事が崩壊するきっかけが
いかにもフランス人っぽいところ
(ちょっと偏見入ってますw)
でしょうか。
あるいはもしかしたら
同じ出来事が二度起きることで
いかにもフランス・ミステリらしい
と思わせる展開に
うっちゃりを食らわしているのが
ポイントといえないこともなく。
一度目は偶然だが二度目は必然
という成句を
そのままプロットにしたもの
と見るべきなのかもしれません。
ただし
最後の一句は気が利いていて
こういうおしゃれなところは
いかにもフランス・ミステリらしい
と思わせるところでした。
決めるべきところは
きっちり決めているあたり
さすがです。
原題は
Le monte-charge で
直訳すると
「貨物用エレベーター」
という意味になります。
今回の邦題は
以前、日本で公開された
映画の邦題から
採られたみたいですね。
文庫本で200ページほどなので
長編というよりも中編という感じ。
中条省平の巻末解説によれば
2013年に亡くなった訳者が
どこに発表するあてもなく訳して
篋底に秘められていたものだそうです。
解説にはダールの略歴も
書かれていますが
実娘が誘拐されたことがある
というだけでなく
その犯人が意外というか
まるでダールの書くミステリのようで
事実は小説より奇なり、を
地でいくような話には
びっくりでした。
解説の邦訳リスト中
最初の2冊は稀覯書でして
『悪者は地獄へ行け』は
自分も持ってません。
以前、Amazon で
出品されてましたが
値段が張るので躊躇っていたら
売り切れてしまいました。(T_T)
それはともかく
1980年代に訳された
他の邦訳作品と比べると
『夜のエレベーター』の出来は
やや落ちる気がしないでもありません。
裏表紙側のオビに
全盛期のクリスティーを思わせるプロット
という《ガーディアン》の書評が
引用されてますけど
それはさすがに褒めすぎ
というのが正直なところです。
プロットはクリスティー的でも
それをどう見せるかという
プレゼンテーションのあり方が
異なるように思うので
同列には語れないと思います。
彼我の、というか
自分とイギリス人との
(《ガーディアン》はイギリスの新聞)
クリスティーに対する認識
ないし理解の差が感じられて
興味深いんですけどね。
それはそれとして
本作品については
小味なフレンチ・ノワール
と評するのが
妥当だろうと思う次第です。