(鬼頭玲子編訳、論創社、2019.1.30)
論創海外ミステリから刊行されている
レックス・スタウトの創造した名探偵
ネロ・ウルフが登場する中短編を収めた
新シリーズの1冊目です。
収録作品は
「悪魔の死」(1961.1.10)
「殺人規則その三」(1960.1.30)
「トウモロコシとコロシ」(初出年月不詳)で
付録として最後に
シリーズ全体から抜き出した
ウルフやアーチー・グッドウィンの台詞を
「女を巡る名言集」と題して
収録しています。
なお、最初の2編の初出誌は
『サタディ・イヴニング・ポスト』で
カッコ内は、手許の資料で調べた
その掲載年月日です。
最後の1編は初出不詳で
1964年刊の作品集
Trio for Blunt Instruments に
初めて収められました。
ネロ・ウルフの女嫌いは有名で
そのウルフが女性のために
ひどい目に遭う、とはいっても
事件を引き受けざるを得なくなる
といった程度ではありますけど。
むしろアーチー・グッドウィンに
女難の相が見られる
という印象が強いですね。
面白いのが
「殺人規則その三」や
「トウモロコシとコロシ」では
アーチーが助手ではなく
ウルフと共同捜査する
という設定になっている点です。
2人の関係が
単純なバディではない
ということをうかがわせて
興味深いとでもいいましょうか。
今回の収録作品は
トリックの面白さよりも
シチュエーションの面白さで
読ませる話がほとんど
という印象です。
推理という側面では
どの作品だったかで
証拠があるのかという犯人に対し
証拠はないが、警察は優秀だから
方向さえ決まれば必ず見つける
証拠は残しているものだ
とウルフが応じるのが
印象に残りました。
いわゆる名探偵というのは
証拠を犯人に突きつけて
ぐうの音もいわせない
というイメージがあるからです。
ウルフものが一般的な名探偵小説
すなわち本格ミステリと違う
という印象を受ける所以は
こういうところにも
あるのかもしれません。
冒頭の「悪魔の死」は
自分の知るかぎり
これまで雑誌などに訳されたことがない
本邦初訳作品です。
ウルフに話を聞いてもらいたいという
女性依頼人が当初、立てていたらしい
夫殺しの計画の内容が気になりました。
完璧な計画を立てたというので
依頼人が無罪と思わせて
実は当初立てた計画どおりだった
というプロットかと思いきや
そこまでひねってなかったのが残念。
「殺人規則その三」は
説明するとネタバレになるので
ここでは書きませんけど
ちょっとトリックに
難があるように思いました。
女性のタクシー運転手が
どう見られているか
という社会風俗的な部分は
面白かったんですけど。
ちなみにタイトルは
殺人の法則が三つある
というふうに読めますけど
殺人の容疑で捕まったら
警察への対応は三つあるという
アーチーの台詞に由来するので
ちょっと違和感がありますね。
旧訳では
「第三の殺人法」と訳されていて
もっと違和感がありますけど。
というわけで
いちばん面白かったのが
「トウモロコシとコロシ」。
知人の女性が嘘を吐いたおかげで
アーチーに殺人の容疑がふりかかる。
その嘘が
いかにも身勝手で
脳足りんな感じなんですけど
その脳足りんな娘の証言を基に
ウルフは真相の当たりをつけます。
ちょっといえば
信頼できない語り手の
推理のきっかけとなる話(証言)だけ
信頼するようなものでして
ちょっとズルい(笑)
また、自分は読んでいて
迷惑な女だと思ったんですけど
アーチーがガールフレンドの
リリー・ローワンにいきさつを話すと
リリーはその女性の肩を持つんですね。
そこがなんとも不思議な気がされて
なんで肩を持つんだろう
とか考えさせられるのも
面白いポイントかもしれません。
ミステリ的な面白さとは
また別の面白さなんですけどね。
なお、巻末には