(鬼頭玲子訳、論創社、2016.10.30)
論創海外ミステリに加わった
日本オリジナル編集の
ネロ・ウルフ・シリーズ中編集、
その3冊目です。
今回は収録作の題名が
副題になっているわけではなく
ウルフの助手であるグッドウィンが
軍務に就いている時期の作品を集めているので
「アーチー・グッドウィン少佐編」
というわけ。
収録作品は
「死にそこねた死体」(1942年12月)
「ブービートラップ」(1944年8月)
「急募、身代わり」(1945年8月)
「この世を去る前に」(1947年4月)の4編。
(三つ目の「身代わり」には「ターゲット」と
ルビが振られています)
他に「ウルフとアーチーの肖像」と題した
原作者スタウトのメモが併録されています。
実際に読んでみると
「この世を去る前に」では
アーチーは軍服を着ていないし
すでに軍務を解かれているっぽい。
「この世を去る前に」の直前に発表された
「証拠のかわりに」(1946年3月)には
「復員して一週間にしかならない」
(田中小実昌訳)と書かれていますし。
ちなみにアーチーは
国外に派兵されておらず
国内で情報局の仕事を手伝っている
というか、ウルフに手伝わせるための
折衝役を務めていたので
「復員」というのは変な感じですが
それが分かるのも
今回の本のおかげであってみれば
スルーしとくべきでしょうか。
今回の収録作で面白かったのは
「死にそこねた死体」で
○○殺人のヴァリエーションとして
メイン・トリックに感服しました。
それだけでなく
アーチーは軍務に就いているのに
ネロ・ウルフを出馬させるため
いつも以上に無茶なことをしていて
スラップスティック度が
ハンパなかったです。
アーチーのガールフレンドとして
レギュラー・キャラクターになっている
リリー・ローワンも
かなりの無茶っぷり。
全体の雰囲気は
クレイグ・ライスの
マローン&ジャスタス夫妻シリーズを
彷彿させるものがあります。
リリーのある行為が判明した途端
真相が決定されるあたりが素晴しく
キャラクター小説の面白さと
ミステリの趣向とが
渾然一体となった秀作でした。
その他の作品は
犯人の意外性が
見事に決まった作品もありますけど
推理の面白さという点では今ひとつ
といった感じかなあ。
その代わりといっては何ですけど
戦時中の空気が描かれている点が
興味深かったです。
「ブービー・トラップ」では
アメリカ本土にも
灯火管制があったことが
描かれているし。
「この世を去る前に」は
「大規模肉不足のまっただ中」ゆえに
事件を引き受けるという設定で
アメリカでも肉不足の時期があったのか
とか思ったり。
他に「急募、身代わり」で
脅迫状に使うために切り取った
広告の載っている雑誌が
『アメリカン・マガジン』という
当の作品が掲載されている雑誌
というあたりは
ニヤリとさせられるところ。
ちなみに
本書収録の作品はいずれも
『アメリカン・マガジン』掲載作で
上記各作品のカッコ内の年月は
こちらで調べた掲載年月です。
解説(訳者あとがき)には
これまで初出のデータなどが
書かれてなかったんですけど
今回の『グッドウィン少佐編』になって
ようやくネロ・ウルフ・シリーズの
単行本リストが巻末に付きました。
ただし、このリスト
原題のみで邦題が付いてないため
ちょっと使い勝手が悪いのが
珠に瑕といったところ。
気になる方は
Wikipedia で
御覧ください
ということなのかしらん。( ̄▽ ̄)