『消えた犠牲』

(1958/池田健太郎訳、東京創元社

 クライム・クラブ、1959.9.30)

 

東京創元社が出していた

クライム・クラブという

新書判の叢書の第27巻です。

 

初刊時はハコ付きでしたが

残念ながら手許の本には

欠けています。

 

 

本書を古本で買ったのは

大学生の頃だと思いますが

誰から、あるいは、どこで

いくらで購ったのか

もはや記憶の彼方です。

 

それなりのお値段だったかなあ。

 

それなりのお値段で

購ったにもかかわらず

読むのは例によって

今回が初めてだったりします。(^^ゞ

 

 

『消えた犠牲』は

ベルトン・コッブという

イギリス作家の本邦初訳作品で

初登場時は警部補だった

シリーズ・キャラクターの

チェヴィオット・バーマンが

警部として登場します。

 

ミステリと一般小説を

それぞれ別名で書いている作家が

執筆に専念するため

田舎に部屋を借りようと思っていると

自分の本を出している

出版社の経営者に言ったところ

話を聞いた経営者から

自分の所有する田舎の別荘を勧められます。

 

翌日、

勧められた別荘を訪ねてみると

そこで死体を発見。

 

罠にかけられたと思った作家は

そのまま失踪してしまおう

という計画を立てるのですが……

というお話です。

 

 

死体を発見するまでが第1部で

第2部からチェヴィオット警部が登場し

殺人事件の犯人探しと

失踪した作家探しが始まるのですが

読みなれた読者であれば

第1部が終わった時点において

ある疑いを持つのではないかと思います。

 

少なくとも自分は持ちましたし

それで犯人の意外性が

ちょっと削がれてしまいました。

 

読者のアンフェア

というやつです。( ̄▽ ̄)

 

翻訳された当時は

あるいは新鮮な驚きを

もたらしたかもしれませんけどね。

 

 

それに関連してもうひとつ、

この構成を前提とすると

作中で或る人物が気づく手がかりは

チェヴィオットには気づき得ないもの

ではないかと思うのですけど……。

 

その手がかりが

誰でも見過ごすような、

それでいて気づいた時に

膝を叩かせるようなものであれば

すごい傑作になっていたはず。

 

チェヴィオットの捜査を描く

第2部が面白かっただけに

ちょっと惜しいと思った次第です。

 

 

作中に作家を登場させることで

出版社の内幕ものにも

なっています。

 

作中の作家を通して描かれる

出版社に対する小説家の思いなど

内幕を明かしているようで興味深く

また、面白く読めました。

 

 

作中の作家が

本名とふたつのペンネームを

使い分けていることで

ちょっとした失踪を

可能にするわけですけど

そこらへんは江戸川乱歩好みの

シチュエーションではないか

とも思ったり。

 

自分の知るかぎり

本書についての乱歩の感想は

残っていないはずですけど

翻訳が出た当時、乱歩は存命で

当然、読めたはずですから

読後感など、知りたいところですね。

 

 

また、第2部は

チェヴィオットの視点で進行し

その内面が描かれていくため

被害者の妻が

あまりに美人だったので

妻帯者のチェヴィオットも

判断を鈍らせがちになったり

それに自ら気づいて

自重しようとしたりという

展開が面白かったです。

 

内面が描かれるということは

行動原理となる推理も

あまさず描かれていくので

展開がスピーディーかつ合理的となり

好感が持てました。

 

 

登場人物が少人数で

恋愛絡みの要素もあるため

また200ページほどと短いこともあり

フランス・ミステリ風な感じも

されたことでした。

 

もっとも

論理によって物語が進行するため

そこらへんはやっぱり

イギリス・ミステリ然としてる感じ。

 

 

原題は

The Missing Scapegoat

直訳すれば

「失踪したスケープゴート」。

 

本文扉には

「犠牲」に「いけにえ」と

振り仮名が付いてまして

 

『消えた犠牲』本文扉

 

これには今回

初めて気づきました。(^^;

 

(ちなみに背表紙と奥付には

 振り仮名が付いておりません)

 

気づく前は

「きえた ぎせい」と読んでいて

どういう意味だろう、

こなれない邦題だなあ

とか思っていたんですけど

「きえた いけにえ」なら、まあ

分からなくもない。

 

失礼いたしました。(^^ゞ

 

 

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