『キリシタン音楽入門』

(日本キリスト教団出版局、2017.7.25)

 

副題「洋楽渡来考への手引き」

 

『洋楽渡来考』(2004)と

『洋楽渡来考 再論』(2014)が

専門的で高価すぎる

もっと手軽で読みやすい本が欲しい

という声に応えて

まとめられた本です。

 

これは出たのを知った時に

新刊で買いましたが

例によって積ん読のまま

今回、ようやく手にとった次第。

 

 

論証や資料の一部は

省略されているようですが

論証の流れは分かりますので

たいへん興味深く読めました。

 

天正遣欧少年使節が

帰国後、秀吉の前で

御前演奏した曲は何か

という史料は残っていないながら

ジョスカン・デ・プレの

《千々の悲しみ》だろうと

推理している箇所では

歴史小説ばりに

曲目を決める話し合いを描いていて

なかなか愉快だったり。

 

 

『耶蘇教写経』として知られる

『キリシタン・マリア典礼書写本』が

東京帝室博物館に収蔵される経緯を

推理していく章では

イギリスの外交官

アーネスト・サトウが絡んできて

山田風太郎が書く明治ものを

彷彿させるような感じです。

 

ちなみに

現存している『耶蘇教写経』には

欠落部分があるそうですけど

言語学者の新村出が

大正時代に調査筆写しているため

欠落部分の内容が分かる

と書かれています。

 

なぜ新村出が調査筆写したのか

興味があるところですが

『洋楽渡来考』の方には

書かれているんでしょうかね。

 

 

歌オラショ《ぐるりよざ》の

原曲にあたる聖歌をつきとめるために

7年の歳月がかかったそうで

ただただ感嘆させられるばかり。

 

本で読むと

数ページにしかなりませんけど

並々ならぬ苦労と執念の

賜物であることが

想像されます。

 

ヴァチカン図書館は

閲覧時間が3時間しかなく

請求できる資料は3点まで

という細かい記述も

興味津々。

 

 

本書の最後に収められている

箏曲《六段》は

グレゴリオ聖歌の《クレド》に

基づいているのではないか

という考察も興味深く

箏曲との比較演奏が

『洋楽渡来考 再論』付属の

DVDに収録されているとなると

俄然、欲しくなってきたり。

(困ったのものだw)

 

イベリア系の変奏曲を

ディフェレンシアスというのは

少し前にそっち系のCDを買ったので

知っていましたけど

ディフェレンシアスの場合

変奏の基になる曲を含まずに

セットになっている

というのは初めて知りまして

ちょっと勉強になったり。

 

 

本書には

ルネサンスから

バロックに入るあたりの

教会音楽の作曲家の名前などが

散見されます。

 

自分は、著者の

『ルネサンス・バロック名曲名盤100』で

CDを集めてきた人間だけに

よりいっそう楽しめた気がして

一読者にしか過ぎませんが

著者との縁を勝手に感じもし

感慨深いものを覚えた次第です。

 

 

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