(1966/荒川比呂志訳、
ハヤカワ・ミステリ、1969.1.15)
このところ必要があって
でも特に当てがあるわけでもなく
フランス・ミステリを
読んでいます。
本日、読み終ったのが
ローレンス・オリオールという
女性作家の第3作で
フランス推理小説大賞受賞作。
原題は L'interne de service で
「やとわれインターン」というより
「研修中のインターン」と訳す方が
原題のニュアンスに近いようです。
11ページの割注によれば
フランスでインターンというのは
「国立病院の住み込み専門医」となるために
訓練中の医者見習いを指すらしく
日本でいうレジデントにあたるとか。
(現在もそうなのかどうかは知りません)
タイトルロールのインターン生
ヴァンサン・デュボスは
専門医試験に落ちた後
指導医のギヨーム・ブラサールに
自宅に来て勉強するよう勧められます。
ブラサールには愛人があり
妻と離婚したくてしょうがない。
その愛人からの示唆もあり
美貌のヴァンサンを家に入れて
妻が彼になびくように仕向け
それを理由に離婚に持ち込もう
という計画を立てたのでした。
しばらくして愛人が
ブラサールの秘書となり
4人の人間による思惑が相互に絡み合い
事件が起きるというお話です。
冒頭は司法側の視点で始まり
田舎の別宅で誰かが死んだことが
示唆されるんですけど
誰が死んだのかは読者に知らされず
警部が取り調べ調書を読み返すのに合わせて
そもそもの始まりから
事件が起きるまでの経緯が語られる
という構成を採っています。
被害者は誰か
という謎で読み手の気を引くあたり
技巧的といえば技巧的ですが
パット・マガーの
『被害者を捜せ!』(1946)
とかに比べると
なんだか手触りが違う感じ。
というのも
それぞれに思惑を抱えた
男女4人の心理の絡み合いや
変化を描くというのが
興味の中心におかれるから
でしょうか。
そういうプロット自体は
フランス作家のお家芸
という印象がありますけど
恋愛ものとしてはありがちで
早くミステリにならないかしら
と思っちゃうんですよね。
ヴァンサンが命を失いかけたり
ブラサール夫人が狙撃されたりしてから
ようやく物語が動き出した感じで
誰が何のために、という推理が
関係者の心の裡で展開されたりするのは
面白かったですけど
それもすぐさま
犯人の告白で呆気なく
明かされるから物足りないし。
ある状況に置かれたときの
心理の動きを精緻に見ていく
というのがフランス人は好きで
何度、繰り返されても
飽きないんでしょう、たぶん。
そういう国民性に根ざした
プロット嗜好というのは
どこの国にもあるでしょうし
同じようなプロットに見えても
微妙な違いがあるんだと思います。
その微妙な違いを見分けるのは
やはりその国の人でないと難しいから
他所の国の人間はなかなか楽しめない
という感じでしょうか。
ハヤカワ・ミステリからは、もう1冊
オリオールの長編が出ています。
そちらは出た当時、新刊で買ったまま
積ん読状態でしたので
いい機会ですから
目を通してみることにしましょうか。