あけましておめでとうございます。

 

新春一発目の読書は

今年の干支に掛けまして

こちらの本を選びました。

 

クリスチアナ・ブランド『猫とねずみ』

(1950/三戸森 毅訳、

 ハヤカワ・ミステリ、1959.2.28)

 

クリスチアナ・ブランドといえば

コックリル警部を探偵役とする

技巧的なフーダニットのシリーズで

よく知られていますが

本書はノン・シリーズもの。

 

ジュリアン・シモンズが

識者のアンケートをもとに選んだ

サンデー・タイムズ・ベスト99にも

「現代犯罪小説」の項目で

選ばれています。

 

 

以前、一度読んだことがあり

今回が再読になりますが

前に読んだ時は

あまり面白いとは思えず。

 

というより

訳が悪いなあと思ってたんですが

今回はそれなりに楽しめました。

 

 

物語が始まる前にブランドが

献辞の相手に向けて前書きを書いており

そこでジェーン・オースティンの

『ノーサンガー・アビー』(1817)に

言及しています。

 

『ノーサンガー・アビー』は

残念ながら未読ですが

ゴシック小説のパロディと目されている

ということは知ってました。

 

ですから

前書きでそれを引くことで

本書もまたパロディであることを

示唆していると考えられます。

 

 

女性向け雑誌『乙女の友』で

身の上相談欄を担当している

薹[とう]の立ったヒロイン

(今風にいえばアラサー)が

休暇中に気まぐれから

投稿者の許を尋ねてみると

そこには投稿者が存在しなかった

というのが物語の出だしです。

 

第1章で描かれる

身の上相談欄を担当するヒロインと

美容相談欄を担当する友人との

やりとりや描写がすさまじく

笑いを誘われずにはいられません。

 

いってみれば

男性に伍して働く職業人の女性が

ゴシック小説のような世界に迷いこみ

ゴシック小説のヒロインのような

ふるまいをしてしまうという話で

そういう可笑しさを押さえておかないと

退屈極まりないドタバタ話を

読まされているような気分に

なるかと思います。

 

 

存在しない投稿者は誰か

という謎をめぐって

真相が二転三転する展開は

いかにもブランドらしいのですけど

根拠もなくヒステリックに

ギャアギャアわめいているようにしか

読めないようなところもあります。

 

コックリル警部もののブランドを期待すると

肩すかしを食らわされること

間違いなしでしょう。

 

ヒロインが屋敷の人物に惚れる理由も

よく分からなかったり。

 

ただ、そんなこんなも

ゴシック小説の展開も実際は

こんなようなものなのかもと

要するにパロディだと思えば

納得できるわけです。

 

(面白がれるかどうかは

 読む人にもよるでしょうけど)

 

 

サンデー・タイムズ・ベスト99で

「現代犯罪小説」の枠に入っていることが

最後の最後で腑に落ちましたけど

なぜ、腑に落ちたのかを書くと

ネタバレになるので伏せておきます。

 

今回、読み直して

現代ミステリの或るジャンルの

早い時期の作品だと思った

ということだけ

備忘のために

書き添えておくことにします。

 

(しばらくすると、どんなジャンルか

 忘れてしまいそうですけどw)

 

 

原題の Cat and Mouse というのは

翻訳ミステリの愛読者ならご存知の通り

「猫がねずみをもてあそぶような振る舞い」

という意味の成句で

cat-and-mouse というふうに

間にハイフンが入ると

「追いつ追われつ」

という意味にもなります。

 

ヒロインが「ねずみ」に相当し

彼女を追い詰める悪人が「猫」

というわけですね。

 

というわけで

実際に「ねずみ」が出てくる

という作品ではありませんけど

そこはご容赦いただければと。

 

 
ペタしてね
 
 
●訂正(同日3:00ごろの)
 
原書刊行年を1952年としていたのを
1950年に訂正しておきました。
 
ポケミス初版本巻末のリストでは
1952年になっていたんですけど
念のため、別の資料に当たった結果です。
 
失礼いたしました。m(_ _)m