ヒレ・パールがCDのライナーに
オルガンのためのトリオ・ソナタは
オリジナルの演奏をじかに聴くのは難しいため
多くの人が室内楽用の編曲を試みている
と書いていることを紹介しました。
ところで手許にある
ヘルムート・ヴァルヒャ演奏の
トリオ・ソナタのCDを聴きながら
(ポリドール POCA-2072、1992.9.1)
ライナーをつらつらと眺めていたところ
東川清一が次のように書いてました。
たとえば「ニ短調トッカータ」BWV 565 とかハ長調の「トッカータ、アダージョとフーガ」BWV 564 といったバッハの青年時代の、いわばオルガンくさい性格の曲を知る人にとっては、この6曲はあまりにも室内楽的あるようにきこえるであろう。実際、室内楽に編曲されて演奏される場合も少なくない。
そんなに室内楽盤があるのかと思い
手許にもあるかもと考えて
探してみたところ
出てきたのがこちらの1枚です。
(英 Virgin Classics: 7243 5 45192 2 2、1996)
リコーダー奏者
ジュディス・リンセンバーグ主催の
バロック・アンサンブル
ムジカ・パシフィカの演奏で
収録曲はすべてリンセンバーグによる編曲。
本盤ではリンセンバーグの他に
ヴァイオリンのエリザベス・ブルーメンストック
チェロのエリザベス・ル・グイン
チェンバロのエドワード・パルメンティエール
という面々が参加しており
リコーダーとヴァイオリンが主旋律を担う
トリオ・ソナタとして編曲されています。
使用されているリコーダーは一種類ではなく
BWV 525と527、529、530 が
アルトリコーダーで演奏され
その他の2曲はヴォイス・フルートで演奏
とライナーに書かれています。
ヴォイス・フルートというのは
「フルート」という名前が付いてますけど
楽器自体はリコーダーです。
リコーダーは当時フルートと呼ばれており
現在のフルートにあたる楽器が
フラウト・トラヴェルソ
すなわち「横向きのフルート」
と呼ばれていたことは
以前にも書いたかもしれません。
だからヴォイス・フルートが
リコーダーであっても
おかしくも何ともないわけでして。
英語版 Wikipedia の
ヴォイス・フルートの項目には
アルトとテナーの中間の大きさ
と書いてあるようですけど
リコーダー奏者である森吉京子のブログだと
いちばん大きいサイズのようですね。
全部の指孔をふさいで出る音が
一般的なアルトリコーダーよりも
3つ分、音が低いと書いてありますから
いわばヴィオラ・ダ・ガンバのような
低音楽器といえるのかもしれません。
ガンバもサイズによって音の高さが違うので
一概にはいえないのでしょうけど
とりあえずのイメージとしては
そんな感じかと。
本盤は
たぶん新宿のヴァージン・メガストア
(1990年開店〜2004年閉店)で
新譜で買ったのだと思います。
最初に買って聴いた時は
ヴォイス・フルートと
アルトリコーダーの違いなど
あまり意識してませんでした。
ライナーも、ちゃんと見てなかったかも。(^^ゞ
見て、何だろうと思い
調べようとしても
現在のように
ネットで簡単に検索できる
という時代では
なかったように思います。
それに
アルトリコーダーと
ヴォイス・フルートの演奏を
意識して聴き比べてみても
同じようにしか聴こえないし。(^^;
演奏自体は
バロック・ヴァイオリンだけあって
どの演奏でもリコーダーの音を殺すことなく
トリオ・ソナタの聴きどころとされる
ふたつの旋律楽器の絡み合いによる面白さ
楽しさを堪能することができます。
リンセンバーグのアレンジもいいんでしょうけど
速いパッセージをものともしない
リコーダーの超絶技巧にも
支えられていることは
いうまでもなく。
「ヴァイオリニストの王」と称えられた
ヤッシャ・ハイフェッツを引き合いにして
リコーダー界のハイフェッツと呼ばれている
という紹介記事もあるくらいです。
とはいうものの
ハイフェッツの演奏を
いまだに聴いたことがないので
とにかくすごいんだろうな、という感想しか
思い浮かばないんですけどね。(^^ゞ
ちなみに
なぜ旋律楽器として
リコーダーとヴァイオリンが選ばれたのか
については
よく分かりません。
ライナーを書いているのは
リンセンバーグではなく
マルコム・ボイドという人で
さっと見てみたところ
トリオ・ソナタの成立や背景について
書いているだけのような印象です。
リンセンバーグがリコーダー吹きだから
リコーダーでやってみました
ということかもしれず
だとしたら前回ご案内の
ヒレ・パールの場合も
ガンバ弾きだから、ということに
なるのかもしれませんね。