『パーカー・パインの事件簿』

(1934/小西宏訳、創元推理文庫、1963.10.18)

 

手許にあるのは

1975年7月11日発行の28刷です。

 

定価は240円のところ

かなーり昔、古本で

80円で買ったものですけど

読むのは今回が初めてだったりします。(^^ゞ

 

 

文庫本のカバーを

本体から外して展開してみると

この通り。

 

『パーカー・パインの事件簿』カバー(全体)

 

「カバー装画 S.D.G. 太田英男」

とありますが

「S.D.G.」が何の略なのかは不詳です。

 

スタジオ・デザイン・何とか、

という会社名の略かもしれません。

 

 

全12編を収録しており

前半の6編と後半の6編とで

作品のスタイルが大きく異なっています。

 

新聞に

「あなたは幸福ですか? 幸福でない方は

 パーカー・パイン氏にご相談ください。」

という広告を出している

パーカー・パインの許に

悩める人々が訪ねてくる話が前半の6編。

 

この広告の文句を総タイトルとして

冒頭の1編を除く5編が

雑誌『コスモポリタン』の1932年8月号に

一挙に掲載されました。

(最初の1編のみ初出不詳です)

 

 

パインの秘書であるミス・レモンは

後年に発表されたある長編で

エルキュール・ポアロの秘書として

再登場することになります。

 

悩みを解決するために

ある種のプロットが必要になると

世界的な大衆作家オリヴァー夫人が

プロットを提供するんですけど

このオリヴァー夫人も後になって

ポアロものの長編に顔を見せます。

 

本シリーズのみのレギュラーとしては

パインの指示に従ってミッションに参加する

ジゴロ風の美青年クロード・ラトレルと

妖婦風の美女マドレーヌ・ド・サラの

2人がいる他

最後の1編にしか登場しませんが

アントロバス博士という人物も

メンバーの1人っぽいですね。

 

 

この6編は、

中には己の犯罪のために

パインを利用する相談者もいますが、

純然たる人生相談ものが主で

1930年代の相談事ですから

基本的に他愛のない話が多い。

 

冒険を経験してみたいという相談者には

スパイ・スリラーめいた冒険譚が供されて

当時の冒険のイメージがうかがえるあたり

興味深いといえば興味深いんですけど

もし中学生くらいで読んでいたら

あまり楽しめなかったでしょうね。

 

読もう読もうと思いつつ

今まで手にとらなかったのも

そういう感想を抱くのではないか

と予想していたからでして。

 

 

ただ、面白いのは

統計などを駆使した知見をふまえ

女なんて(人間なんて)こういうもの

と理解していたにもかかわらず

予想外の展開を見せる話が

いくつかあること。

 

一種のユーモアでしょうが

パインが澄ました顔で

「女なんてものは」とか言う話に限って

予想外の展開をみせないあたりなどは

現代では、フェミニストの逆鱗に

ふれそうな気もしますけどね。( ̄▽ ̄)

 

 

後半の6編は

同じく新聞広告の文句を総タイトルにして

6編のうち4編が

『コスモポリタン』の1932年8月号に

一挙掲載されました。

 

翌1933年に

別の雑誌に発表した2編を加えて

すべて休暇旅行先で起きた事件

(宝石盗難事件や殺人事件など)を

パインが解決するという構成になっています。

 

 

後半の6編は純然たる謎解きもので

エルキュール・ポアロが登場しても

何らおかしくない話ばかり。

 

収中、印象的だったのは

雑誌に一挙掲載されたときも最終話だった

「デルフォイの神託」で

おやっと思わせるアイデアが使われており

『ミス・マープルと13の謎』

ある1話を彷彿させるものがあります。

(と同時に、ある日本作家の短編を

 連想させるところもある、かも)

 

その他「シラズの館」も

伏線ともども気が利いていますけど

後半の作品は、むしろ

観光ミステリとしての雰囲気が

ポイントでしょう。

 

事件の発生場所は

イタリアからトルコのイスタンブールに向かう

シンプロン急行内に始まり

バグダット(イラク)、シラズ(イラン)、

ペトラ(ヨルダン)、

ナイル河上を航行する観光船、

デルフォイ(ギリシア)と変化していき

クリスティーの中東趣味全開

といった趣きがあります。

 

 

パーカー・パインものは

本書に収められたものの他に

あと2編、発表されています。

 

創元推理文庫版であれば

『クリスチィ短編全集4』に

 

『クリスチィ短編全集4』

(宇野利泰訳、1967.5.19/1975.1.17、第24刷)

 

ハヤカワ・ミステリ文庫版

あるいはクリスティー文庫版だと

『黄色いアイリス』に

 

『黄色いアイリス』ハヤカワ・ミステリ文庫版

(中村妙子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、

 1980.8.15/1981.6.30、第2刷)

 

収録されていますが

いい機会なので

そちらも読んでみました。

 

2編中の1編「ヨット・レース事件」

(早川版は「レガッタ・デーの事件」)は

最初、ポアロものとして発表されたものを

探偵役をパインに変えたものです。

 

密室からの宝石消失事件を描いたそちらよりも

スペインのマヨルカ島を舞台とする

「ポレンサ入江の事件」

(早川版は「ポリェンサ海岸の事件」)の方が

観光ものでありながら

悩みごと相談系の事件になっていて

面白かったです。

 

 

なお「ヨット・レース事件」の

ポアロが登場する原型短編は

昨年、論創社から出たクリスティー戯曲集

『十人の小さなインディアン』に

収録されています。

 

『十人の小さなインディアン』

(渕上痩平訳、論創海外ミステリ、2018.6.20)

 

こちらは

この記事を書くまでに

読み切れなかったので

内容や感想については残念ながら

何ともいえません。

 

少々お値段は張りますが

興味がある方は

目を通してみてはいかがでしょう。

 

 

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