『恋愛制度、束縛の2500年史』

(光文社新書、2018年12月20日発行)

 

副題「古代ギリシャ・ローマから現代日本まで」

 

ちょっと必要があって読んだんですが

どういう「必要」かは

ご想像にお任せします(笑)

 

 

副題にもある通り

古代ギリシャ・ローマから始まって

キリスト教の恋愛観

中世宮廷恋愛

ロマン派の恋愛観

精神分析がもたらした恋愛観

そして明治の恋愛観の輸入から

現代日本の恋愛観事情までを

コンパクトにまとめた1冊です。

 

コンパクトにまとめすぎて

ここはもう少し詳しく知りたい

というところがなくもないものの

いろいろと啓発された1冊でした。

 

それこそ

ギリシャ・ローマ時代から始まって現代に至る

西欧式の恋愛観をおおまかに捉えるには

最適な1冊かと思います。

 

 

もっとも、第6章の

日本の恋愛観輸入事情については

厨川白村だけかあ

と思わずにはいられませんでしたし

(漱石の恋愛観をめぐる

 著者の考え方を聞きたいところ)

第8章に入って

キャラ萌えと恋愛観との関係を論じてますが

駆け足過ぎるのではと

思わずにはいられませんでした。

 

特に第8章において

西野カナと椎名林檎の歌詞を

例にとって論じるだけでは

ちょっと物足りないです。

 

まあ、これ以上詳しく論じようとすると

本書の倍以上のページが

必要になるかもしれませんけど

せめてこの二人の歌詞に代表させた理由を

知りたい気がしました。

 

 

同じく現代の恋愛事情を論じた第8章で

村上春樹の初期小説を

蓮實重彦や柄谷行人といった人たち、

いわゆる現代文学の評論家が

他者が存在しないと批判したのに対して

反論しているあたりは

自分は特に熱烈な村上春樹ファン

というわけではないですけど

心地よかったです。

 

というか、筆者は日本において

個人や自我が成立していない、という

確固たる信念というか

実感をベースにしているようで

その認識自体はなるほどという感じがされ

ちょっと共感してしまいました。

 

 

ただひとつ

全体の論旨とは別の部分で

気になったところがあります。

 

というのは

中世吟遊詩人のトルバドールについて

以下のように書いている箇所ですが

 

 トルバドールとは、

 ある種の大道芸人というか、

 弾き語りミュージシャンのようなもので、

 市から市へと移動し、そこでリュート

 (ヴィエールと呼ばれる)を使い、

 歌詞をつけて歌を歌いました。(p.149)

 

トルバドールの説明は引っ掛からないんですけど

リュート、イコール、ヴィエール

と読まれかねない記述に

首をひねりました。

 

ヴィエール vielle というのは

ヴィオール viole と同じ楽器でしょうけど

これはヴァイオリンのような擦弦楽器でして

リュートは撥弦楽器であり

両方とも弦鳴楽器ではありますが

発音構造というか

音の出し方はまったく違います。

 

手許にある

ダイヤグラム グループ編、皆川達夫監修の

『楽器』をひもといてみると

 

『楽器』(マール社版)

(1976/笠原潔・庄野進・三宅幸夫訳、

 マール社、1992.4.20)

 

弓奏リュートもあったようですけど

基本的にリュートは、ギターのように

弦を弾いて音を出す楽器です。

 

フィドル

ごっちゃになってるのかもしれず

トルバドールがフィドルで演奏した例も

あるのかもしれませんが

リュートは

ヴィオール属の楽器ではありませんので

そこんとこ、よろしく

という古楽ファンのつぶやきでした。

 

まあ、揚げ足的な指摘で

申し訳ないのですけど

これは校閲で指摘してほしかったですね。

 

 

それとは別に

イギリス保守主義の父といわれる

エドマンド・バークが

ロマン派批評家だというのは

当方の知識不足で

そうとは認識しておらず

蒙を開かれました。

 

保守主義とロマン主義とが

なんで同居できるんだろう

とか気になったので

本書で引用されていたバークの

『崇高の美と観念の起源』を

「日本の古本屋」で注文しちゃいました。(^^ゞ

 

イギリス保守主義は

ブラウン神父シリーズでお馴染みの

G・K・チェスタトンとの絡みで

ずーっと気になっているんですけど

チェスタトンの作品に見られる

ロマンティシズムの要素が

納得できるのかも

なんて思ってみたり。

 

自分が知らなかっただけかもしれませんが

注文した本が届くのが楽しみです。

 

 

恋愛制度を紹介した本からチェスタトンへ

こんなふうにつながるのもまた

読書の楽しみであります。

 

思わぬ出費は別として。

 

(近所の大学図書館で借りればいいのにw)

 

 

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