『三十九階段』創元推理文庫版・旧カバー

(1915/小西宏訳、創元推理文庫、1959.11.6)

 

手許にあるのは

1976年1月23日発行の第23刷で

ずっと以前、古本で買ったものです。

 

初版は確か

白いオビにパラフィンが付いただけ

という、昔の岩波文庫のような装幀で

上掲写真の

松田正久の装画による

印象的な銀色カバーは

後になって付けられたものです。

 

そのカバーの表紙や背表紙では

「39階段」という表記になってますけど

カバーを外した本体扉や本体背表紙

本文扉や奥付は漢字表記の

「三十九階段」です。

 

創元推理文庫版『三十九階段』本体表紙

 

アフリカからの新帰朝者

リチャード・ハネー青年を主人公とする

シリーズの第1作で

ヒッチコックが映画化したことでも

よく知られている作品です。

 

映画の方のタイトルは

「三十九夜」(1935)で

昔は映画と同じタイトルの翻訳も

あったかと思います。

 

もっとも、「三十九夜」だと

作中に出てくる暗号との整合性が

取れないような気がするのですけど

映画の方はどうなってるんでしょう。

 

 

前々から気になっていた本なのですが

昨年の11月に河出書房新社から

KAWADE 夢ムックの1冊として

『文藝別冊/ヒッチコック 完全なる殺人“芸術”者』

という本が出たので

思い立って読んでみることにした次第です。

 

170ページ弱の薄い本で

昨今の重厚長大なミステリや

スパイ小説に慣れている人間には

あっけないでしょうけど

なかなか楽しめました。

 

 

まあ、現在の読者からすれば

追跡者から逃れるハネー青年が

行く先々で善良な人々と出会い

幸運に恵まれるのは

御都合主義の極みのように

思われるかもしれません。

 

でも発表されたのは

第1次世界大戦が始まった翌年の

1915(大正4)年ですし

(小説内では開戦前の設定)

当時はまだ

シャーロック・ホームズ・シリーズが

人気があったころでもあり

のんびりしているのも

味わいということで。

 

作中には

「ライダー・ハガードや

 コナン・ドイルの小説

 そっくりじゃありませんか」(p.49)

という台詞が出てきたり

ハネーが暗号解読に取り組む際

「どうみても、僕は

 シャーロック・ホームズのがらでは

 ないからだ」(p.142)

と一人ごちるシーンがあったりして

同時代の大衆文学事情を偲ばせるのも

興味深いところ。

 

アマチュア青年が

国家を揺るがす大陰謀に

敢然と立ち向かうというプロットは

マージェリー・アリンガムの

『反逆者の財布』(1941)にまで

あるいはそれ以降の作品にも

脈々と流れている

パターンのような気もしました。

 

 

スコットランドを逃げているハネイを

悪漢側が飛行機で探すというのは

ヒッチコックの

『北北西に進路を取れ』(1959)に

影響を与えたりしているのかも。

 

……とか思っていたら

Wikipedia の記事によると

ヒッチコック自身

『三十九夜』のアメリカ版を

撮ろうと思っていたみたいですね。

 

さもありなん、と腑に落ちました。

 

 

いずれにせよ、これでようやく

映画の方を観られるわけですが

(自分は読んでから観るタイプ)

よくよく考えたら

持ってなかったのであったという。

 

「あるある」なオチですみません。(^^;ゞ

 

 

「カリカリしたソーセージと

 香ばしいベーコン削り、

 それに形のいい半熟卵」(p.86)

という文章があったりして

訳文が古くなっているので

改訳が望まれるところですが

これはこれで風情がある

というべきか知らん。

 

カバーの方は

新装版が出ているようです。

 

 

個人的には、手もとにある

旧カバーの方が好みかな。

 
 
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