(東芝EMI. TOCT-8615、1994.11.30)
こちらも
馬飼野元宏監修
『昭和歌謡ポップスアルバムガイド
1959−1979』(2015)に
載っている1枚です。
辺見マリ、山本リンダ、夏木マリらと共に
「セクシー歌謡」として括られていまして
前回、夏木マリを取り上げた連想で
紹介しとこうと思った次第です。
こちらは少し前に
神保町のディスクユニオンで見つけた
プラスチック ケース仕様のものです。
その後、2003年になって
紙ジャケ仕様で再リリースされており
そちらも同じ神保町の店で
見かけたことがあります。
ボーナストラックなどが
追加されているわけではなく
収録曲は同じだったので
買いませんでしたけど。
安西マリアが
表題曲「涙の太陽」でデビューしたのは
タスキ裏の短い解説文に拠ると
1973年7月5日だそうです。
ケース裏に書かれている
本アルバムのリリースが同年8月5日。
ひと月しか経っていないので
「涙の太陽」がヒットしたから出した
というより
最初からシングルとほぼ同時に出す
という戦略だったのかもしれません。
新人の1枚目のアルバムですから
やはりカバーが多いのですけど
(そもそも「涙の太陽」自体
エミー・ジャクソンが1965年に出した
デビュー曲のカバーです)
たとえば、夏木マリの
『絹の靴下〜マグネット・アルバム』と
大きく異なるのは
収録曲のほとんどが
洋楽のカバーであること。
よくよく考えたら
夏木マリのアルバムにしても
洋楽カバーがあっても良かったはずで
日本人歌手だけ、というか
日本語歌唱曲ののカバーだけにしたのは
安西マリアの本盤と比べると
ちょっと不思議なような気がします。
もしかしたら
レーベルの特性のよるのかもしれませんし
ドイツ人とのクォーターという
安西の出自に基づく
イメージ戦略だったのかもしれません。
もっとも
当時のアイドルの1枚目のアルバムには
洋楽カバーが入るのは
定番中の定番だったわけで
その意味では、セクシー路線とはいえ
アイドルとして売り出した
ということになるのかも。
Wikipedia にも項目が立っていないので
以下に収録曲と創唱者をあげておきます。
01.涙の太陽(エミー・ジャクソン、1965)
02.砂に消えた涙(ミーナ、1964)*「涙の太陽」B面
03.マイ・ボニー(スコットランド民謡)
04.アイドルを探せ(シルヴィー・バルタン、1963)
05.ビー・マイ・ベイビー(ロネッツ、1963)
06.恋の日記(ニール・セダカ、1958)
07.涙は春に
08.ジョージー・ガール(ザ・シーカーズ、1967)
09.ボーイ・ハント(コニー・フランシス、1961)
10.ゴーカート・ツイスト(ジャンニ・モランディ、
1963)
11.雨の御堂筋(欧陽菲菲、1971)
12.悲しき片想い(ヘレン・シャピロ、1961)
「マイ・ボニー」を除き、すべて日本語歌唱です。
「マイ・ボニー」は
元々のスコットランド民謡の原詞のまま
矢野誠のアレンジで歌われています。
同曲は1961年に
トニー・シェリダンが
ロック・アレンジでリリースしています。
同年、ドンナ・ハイタワーがリリースしており
それに漣健児の訳詞を付けてカバーされたものが
日本でもリリースされているそうですけど
安西マリアのバージョンは
安西のオリジナルと見ていいようですね。
また、エミー・ジャクソンの「涙の太陽」は
リリース時、英語歌唱でしたが
実をいえば、湯川れい子が別名義で書いた
なんちゃって英語歌詞です。
青山ミチが1965年にカバーした際
同じ湯川によって
日本語歌詞が書かれたようで
安西のカバーは
青山版を踏襲したものと思われます。
それにしても
オリジナルのリリース年を
改めて調べてみると
ニール・セダカと欧陽菲菲の歌を除き
すべて1960年代ソングだということに
驚かずにはいられません。
「マイ・ボニー」にしたところで
1961年に再発見されてるわけですから
60年代の楽曲だと
見なせなくもないわけでして。
アルバム自体は1973年に出ているのに
60年代の洋楽で固めるあたり
以前、当ブログで紹介した
浅田美代子のデビューアルバム
『赤い風船』(1973)のB面が
60年代洋楽で占められていたことを
連想させもします。
当時の、新人のアルバム制作の
定番の構成だったのかも。
個人的には
シルヴィー・バルタンの
「アイドルを探せ」のカバーが
収録されているあたり
注目されます。
「アイドルを探せ」自体は
辺見マリも1st アルバムでカバーしており
必ずしもセクシー路線と
相容れないわけではなく
むしろ「アイドルを探せ」が
辺見や安西のアルバムでカバーされている
というところに
(そして、浅田美代子はカバーしていない
というところに)
同曲の位置づけや受容のされ方が垣間見えて
興味がいや増すといったところですね。
とはいえ全体を聴いた印象は
セクシー歌謡集というより
アイドル歌謡集という印象に
近いものがあります。
セクシーはセクシーでも
大人の色気ぷんぷんというより
健康的な色気という感じ。
それは
曲のイメージに合わせてなのか分かりませんが
小麦色に焼いた肌を見ても
分かることでして
やっぱりアイドル路線で
売ろうとしていたのではないか
と思っちゃうんですけどね。
「涙は春に」のみ
安西マリアのオリジナルですが
なぜ、これを「涙の太陽」のB面に
しなかったんでしょうね。
ちょっと演歌っぽいところもあるし
「涙の太陽」が洋楽系だから
(当時、洋楽レーベルからリリースされた)
あえて避けたんでしょうか。
ちなみに「雨の御堂筋」も
作曲がベンチャーズですから
音作りは洋楽系といえるかもしれず
そう考えるといっそう
「涙は春に」の異色さが際立つ感じ。
ああ、また長くなってしまった。
夏木マリとセクシー歌謡つながり
ということで
簡単に紹介するだけだったのに……Orz
洋楽カバーが多いから
いろいろ調べたり
考えたりしちゃうんですけど
ここでカバーされている洋楽って
いわゆるオールディーズだし
最近の人には
ほとんど知られてないんだろうなあ。
ま、自分もほとんど知りませんけどね。(^ ^)ゞ