前回のブログでふれた
スコット・ジョプリンのピアノ・ロールが
決して評判が良くはないことを
紹介している本が、こちらです。
(春秋社、2007年5月20日発行)
副題「真実のラグタイム」
いつぞや、どこぞのブックオフで見つけて
買っておいたままにしていた本ですが
今回、スコット・ジョプリンの
ピアノ・ロール演奏のCDを見つけたこともあり
ちょうどいい機会なので読んでみた次第です。
そしたら、やたら面白くて
あっという間に読み終えました。
買った時は
ジョプリンの伝記が出ているとは
知らなかった、珍しい!
という程度の認識だったのですけど
ラグタイムという音楽ジャンルが
いっとき、まったく忘れさられていた
ということを知って、びっくり。
復興までの経緯や
現在でも復興しているとは
一概にはいえないと書かれているのも
興味深いところでした。
一般的な知名度は
映画『スティング』(1973)の主題歌や
挿入歌として使われたことが
きっかけのようですけど
楽曲としての復興は
ジョシュア・リフキンの
3枚のアルバムであると書かれており
そのアルバム、CDで持ってる!
と、心の中で快哉を叫んだことは
いうまでもありません。
リフキンはその後
ヴォーカルがたった4人の
『ロ短調ミサ曲』を出して
バッハの演奏の方で名を成しました。
その『ロ短調』については
以前、当ブログでも
紹介したことがありますけど
聴いたのは『ロ短調』が先だったので
ジョプリンのCDを買ったとき
なんでバッハの人が
ジョプリンのアルバムを出しているんだろう
と思ったのも
今となっては良い思い出。
もっとも、なぜ出したのか
いまだによく分かりませんけど。
閑話休題。
本書はジョプリンの伝記本ですが
ジャズ・ピアニストの先駆的存在である
ジェリー・ロール・モートンのことから
書き始められており
モートンが娼婦のヒモとして暮らしていた
という初めて聞く話にびっくり。
当時のラグタイム・ピアニストは
たいていは娼館や酒場の演奏家だったようで
それもあって
ラグタイムが低劣な音楽だと
見られていたようです。
それも完全に忘れられていた理由のひとつ。
ジェリー・ロール・モートンのCDも
むかし欲しいと思ったことがあって
まだ持ってなかったことを
思い出しました。
ラグタイムという
ジャンル名(?)の意味も
紹介されており
まあ、諸説あるそうですけど
いちいち腑に落ちたりもしたり。
ラグ rag には
「ぼろ着」「ゴミ拾い」
という意味があるそうで
ジョプリンが出版した最初の楽譜に
ゴミ拾いのイラストが
表紙に描かれていたそうです。
そういう類いの音楽と
(もっといえば黒人階級の音楽というふうに)
見られていたということですが
ブームを迎えることで
そういう表紙は
描かれなくなっていきます。
今では
シンコペーションが特徴的なので
「リズムが解体され
『ばらばら(ラグ)された拍子(タイム)』」(p.61)
というふうに解釈されるのが
普通なのだとか。
ジョプリンの生まれた土地では
ジョプリン祭のようなものが
開催されているそうですけど
黒人の参加者はひとりもいないとか
黒人は新しい音楽ジャンルへと、
前へ前へと眼を向けるだけで
古いものは振り返らない
というふうに
黒人と白人とでありかたと対照的なのも
興味深いところでした。
今ではラップやヒップホップが全盛なので
黒人の子どもたちは合唱ができない
と嘆かれている状況が書かれていて
それもまた興味深かったり。
ジョプリンは自身の曲の演奏について
楽譜通りに弾くべき
速く弾くべきではない
というふうに考えていたそうです。
それはクラシックに通ずる考え方で
ジャズのような即興やスイングとは
掛け離れた考え方であり
だからジャズが勃興すると
ラグタイムは飽きられ
忘れられていったようです。
その一方で
クラシックなどの正統音楽からは
娼館などで演奏される娯楽音楽に過ぎない
と思われていたわけですが
ジョプリン自身は自分の音楽を
正統音楽に連なるものと(連なりたいと)
考えていたようです。
それが
クラシック系の音楽学者である
リフキンの演奏で復興したのは
興味深いところだと
本書の中でも書かれてありましたけど
その後、チェンバロでも演奏されたりします。
自分が最初にラグタイムに興味を持ったのは
ポーランド出身のフランスのクラヴサン奏者
エリーザベト・ホイナツカが演奏するCDを
たまたま聴いたからでしたが
それ以降、中野振一郎も
ラグタイムを演奏したCDを出しています。
そのホイナツカのCDがいつ出たものだか
CD自体が部屋のどこかに紛れ込んでいるので
今すぐには分からないのですが
これは個人的に名盤だと思っていることもあり
見つかったら紹介したいと思っています。
ホイナツカのCDが
リリースされた時期にもよりますけど
そういうチェンバロ演奏の試みについては
本書ではまったく言及されていらず
ちょっと残念。
あと、本文や註で
推選できる演奏については
言及されていますけど
やっぱり巻末に
ディスコグラフィが欲しかったかも。
もっとも
ジョプリンの作品リストが付いている他
人名索引、事項索引もちゃんと付いていて
作り自体は学術書並みで
けっして引けを取るものではありません。
類書が他にあるのかどうか
あいにく知りませんけど
とりあえず現在のところ
スコット・ジョプリンについて知りたい方
ラグタイムについて知りたい方には
感にして要を得た必読書として
おススメしたい一冊です。
まあ、積ん読のままで
今ごろ読んだ自分がいうのも何ですけど。