1960年代の欧米の歌手は
日本語で歌唱するレコードを
しばしばリリースしています。
その一部は
以前、こちらでも紹介したCD
『昭和カタコト歌謡曲』(2016)で
聴くことができます。
ただし
日本びいきだったから録音した
と考えるより
当時の欧米のアーティスト
特にヨーロッパのアーティストは
汎ヨーロッパ的に活動していますので
母語以外の録音を残していることが多く
日本語での歌唱の録音も
プロモーションの一環として捉えた方が
妥当だと思います。
フレンチ・ポップスのアイドルにしても
シルヴィー・バルタンがそうであるように
フランス以外の国の出身である場合も多く
状況からくるバイリンガルな言語環境が
他国語によるプロモーションを
容易にしているのかもしれません。
そんな中に
フランス・ギャルや
フランソワーズ・アルディ
マージョリー・ノエルといった
生粋のフランス人アイドルもいるわけですが
ギャルが「夢みるシャンソン人形」の
日本語盤を出していることは
以前にも紹介した通り。
そして実はノエルも何枚か
日本語盤を出しているのでした。
その1枚が今回する盤です。
(キングレコード HIT-1328、1966)
以前、こちらで紹介した
アグネス・チャンの
香港デビュー・シングルを見つけた時
一緒に見つけたものです。
レーベル面には
A面とも Side-1 とも
記されていないので
両A面的な扱いかと思いますけど
ライナーでは「春のときめき」を頭に
曲名が並んでいます。
日本語詞の作詞者は
どこにも書かれていません。
「そよ風にのって」は
漣健児だと分かっていますが
「春のときめき」の方も
同じ人なのかしらん。
「春のときめき」は
本盤が出る前に
日本での2枚目のシングルとして
フランス語盤が出ています。
そちらは聴いたことがないので
聴き比べはできないのですけど
本盤を聴いた限りでは
いかにもイエイエ時代を彷彿させる
ロック調の軽快な曲ですね。
日本語版では
後半がフランス語の歌詞で
歌われています。
その後半部分は
同じ歌詞の繰り返しが
快いテンポを生んでいる感じで
これも原曲が聴きたくなってきました。
「そよ風にのって」の方は
なかなか興味深いところがあるというか
歌詞が一部変わっていますね。
日本語詞で「ワゴン」となっているところが
すべて「汽車」になっていました。
また、歌い出しのAメロでは
女声コーラスが語尾を繰り返すのですが
コーラスではなく
ノエル自身が繰り返すように
アレンジされています。
さらに
「走り去る 町も村も森も」の
あとのリフレインは
「(森も)」となっていますが
「あなたの瞳には うつらない」の
あとのリフレインは
「(みえない)」となっている
というふうに
一部、歌詞を変えています。
伴奏のアレンジは
印象的なギターのリフが
おとなしめになったというか
まったく聴き取れないので
びっくりでした。
これは、いただけないなあ。
ところで
フランス語の発音だと
hが無音になるというのは
よく知られているかと思います。
(某日本作家の長編ミステリでも
トリックに使われてたくらいですし)
そうした発音上の特徴が
本盤の両曲に顕著に見られる
というか、聴かれるのは
新鮮な驚きでした。
たとえば
「あの人のことを」が
「あのいとのことを」になっていたり
「ふたりをのせて走る」は
「ふたりをのせてあしる」と
なっていたりします。
譜割りが気になるところも
ありますけど
割と流暢に歌っているだけに
「は・ひ・ふ・へ・ほ」が
「あ・い・う・え・お」と
なっているのは
ものすごく目立つというか
耳につきます。
こういうあたり
カタコト歌謡として
ポイントが高い気がしますけどね。
ライナーは例によって
金子貞男が書いています。
「パリの日記より」および
「“ノエルちゃん”のインタビューより」の
二部構成になっており
フランス・ギャルのライナーと
同じ趣向ですけど
短いながら
どちらも面白い。
インタビューの方を読むと
日本語の録音は
フランスのスタジオで
行なわれたことが分かります。
そのデモ・テープを
(デモだとは書かれていませんけど)
レコードにしたのが今回の盤である
という経緯を伝えていて
資料としてありがたい。
なるほどフランスで録音したから
hが落ちていても
問題にされなかったのか
とか思った次第です。
ライナーの4ページ目は
同じレーベル(キングレコード)の
ベストセラーの紹介になっていますけど
ほとんどがサントラ盤
ないし映画の挿入歌だというのが
時代の趣味や動向を感じさせます。
それだけに
マージョリー・ノエルと
ジョーン・バエズ、
ザ・ローリング・ストーンズの名前は
当時の洋楽ファンの嗜好を偲ばせていて
興味深いですね。
先に、ノエルが
日本語盤を何枚か出している
と書きましたけれど
ディスコグラフィを作るために
さくっと調べてみたところ
日本人が作詞作曲した
『好きなのに、好きなのに』
というシングルを
リリースしているようです。
(リリース年不詳)
カップリングも日本語なのかどうかは
現物が手もとにないので分かりません。
後にこの曲を収めたコンパクト盤
『逢いたいわ、好きなのに』(1967)
というのも出ているようですが
そこに収録された4曲がすべて
日本語歌唱なのかどうか
やはり現物を見ていないので分かりません。
いずれも気になるところですが
ヤフオク! などにも
出たりしていますので
そのうち見つけるかもしれません。
ただ、お値段が張りそうなのが
悩みのタネなんですけどね。