『そしてミランダを殺す』

(2015/務台夏子訳、創元推理文庫、2018.2.23)

 

空港ラウンジのバーで

離陸を待っていた実業家が

やはり離陸を待っていた女性から

声をかけられます。

 

会話の流れからはずみで、

妻が浮気をしていることを知り

殺してやりたいと思っている

と話したところ

手伝いを持ちかけられ

2人は再び会う約束を交わすのですが……

という出だしのお話です。

 

 

解説でも指摘されてますけど

どことなく

パトリシア・ハイスミスの

『見知らぬ乗客』(1950)を

連想させる出だしですね。

 

スワンソンの作品の場合

交換殺人を持ちかけられるわけでは

ありませんけど

見知らぬ者同士が出会って

殺人の計画を練ることになる

というふうなシチュエーションが

それっぽい。

 

 

物語は

実業家テッドの視点の章と

彼に話しかけた謎の女リリーの視点の章が

交互に配されて進んでいきます。

 

そのまま

殺人を実行していくまでを

丁寧に描いていくだけかと思いきや

第一部の最後で思わぬ出来事が起き

そのすぐ後の第二部の冒頭に

サプライズが仕掛けられていて

おおっ! と思わされて以降は

俄然、リーダビリティーが高まりました。

 

どういうサプライズかは

ここでは伏せておきますが

物語の構図がガラリと変わるあたり

見事だと思います。

 

 

そのサプライズ以降の展開も

ちょっとしたことを書くだけで

勘のいい人には

展開の察しがつくでしょうから

やっぱり書けないのでして。(^^ゞ

 

第三部に入って残り100ページ、

どういうオチをつけるんだろう

と思っていたんですけど

ちょっと肩すかしだったというか

こういうオチは

短編小説にこそふさわしいと

思わずにはいられなかったのが

ちょっと残念。

 

 

ちなみに解説で

空港で話しかけた謎の女ことリリーを

ハイスミスのシリーズ・クリミナル

トム・リプリーを引き合いに出しつつ

「危険な一線を越えてしまった人々」

いいかえれば

「社会のアウトサイダーたち」の

一人であるとしています。

 

一線を越えているのは確かですし

アウトサイダー的存在だと

まあ、いえなくもないですけど

自分的には、リプリー的なキャラだとは

感じられませんでした。

 

 

リプリーの場合

過去がどのようなものか描かれず

それゆえに

社会から逸脱している

ソシオパス的なキャラが

際立っていたように思うわけです。

 

リリーの場合

彼女が関わった人間も

必ずしも良識を持った人々とはいえないため

彼女が一方的に反社会的な存在だと

言われる筋合いはないんじゃないか

と感じてしまうんですよね。

 

特に、子どもの頃

両親と住む邸宅に転がりこんできた

客の一人である画家なんかは

リリーと比べても

まともとは思えないわけで

一般的な読者であれば

リリーに感情移入すると

思うんですけどね。

 

自分の場合、それもあって

最後のオチを

不満に思うのかもしれませんけど

仮に解説で論じられているように

スワンソンが

ハイスミスのトム・リプリーを

意識しているとしても

小説の方ではなく

映画の方(それも古い方)ではないか

と思わずにはいられません。

 

 

そういう感想と

矛盾するかもしれませんが

その画家との絡みで

リリーがある行動を起こす際

アガサ・クリスティーの

『ねじれた家』(1949)を読む件りは

意味深なような気がします。

 

ネタバレの問題もありますので

これ以上詳しくは書けませんけれど。

 

ネットのインタビューでは

お気に入りの作家の一人として

クリスティーをあげているそうですけど

それは解説でいうように

単純な「模範解答」ではない可能性が

あるかもしれませんね。

 

そう考えると

オビ裏に引用された

〈パブリッシャーズ・ウィークリー〉の書評で

「血も凍るような悪を徹底的に描いている」

と書かれているのも

納得できないことはないのですが……。

 

 

本作品は

CWA(英国推理作家協会)が主催する

イアン・フレミング・スチール・ダガー賞の

候補になりました。

 

スチール・ダガーは

スリラーを対象とする賞です。

 

残念ながら受賞は逸したものの

第二部以降のリーダビリティーは捨てがたく

小味な秀作として

おススメしたいところ。

 

リリーを繊細な心の女性と見るか

反社会的な存在と見るかによって

評価は変わると思いますけど

そこは読み手次第でしょうね。

 

自分はもちろん

上に書いてきた内容から

察せられる通り

前者に近い読み方をしています。(^_^)

 

 

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