(2010/久山葉子訳、創元推理文庫、2018.2.16)
スウェーデンの作家
レイフ・GW・ペーションの
本邦初紹介作品です。
ミドルネームの「GW」というのは
解説によれば
Gustav Willy の略だそうですが
なぜ「G・W」という表記に
ならないんでしょうね。
脳梗塞で倒れた
国家犯罪調査局の元長官
ラーシュ・マッティン・ヨハンソンが
入院中に担当医から
牧師だった父親が生前
いまだに解決されていない
25年前の少女強姦殺人事件の
犯人を知っているという
懺悔を受けたという話を聞き
事件の解決に取り組むことになる
というお話です。
ラーシュは現役時代
「角の向こうが見通せる男」
と言われたほどの
いわゆる名探偵的キャラクター。
脳梗塞の影響を受けてはいるものの
その知力はまったく衰えていません。
元長官という身分ゆえに
警察とのコネクションもあり
事件当時の捜査情報の入手が
容易だということもあって
さくさく話が進んでいきます。
過去の事件を再調査するという趣向は
アガサ・クリスティーが得意とした
レトロスペクト・マーダーものであり
元相棒の話を聞いて推理するあたりから
ベッド・デテクティヴの要素も感じられますし
高齢者探偵ものでもあります。
趣向や設定だけで
「つかみはオッケー」
という感じですね。(^_^)
もっとも
犯行現場の当たりをつけた推理は素朴だし
犯人の名前は
調査の結果、たどり着いた関係者による
情報提供によって得られたものなので
謎解きミステリとしての醍醐味や
アクロバチックな推理の面白さ
という点では今ひとつ。
ただ、ラーシュの語り口、
そのほとんどが憎まれ口ですが、
その語り口が面白いこともあって
犯人の名前が判明してから
200ページ強、残っていても
リーダビリティーは衰えず
実に楽しく読める作品になっています。
ところで
今回の事件は
すでに時効を迎えています。
それは事件を再調査し始めた時点で
分かっていたことでした。
殺人事件を含む
重大犯罪に対する時効が
廃止されたのは
現在も未解決なままである
首相の殺害事件が起きてからのこと。
今回、ラーシュが再調査したのは
その法律が施行される直前に
時効を迎えた事件なのでした。
だからといって
重罪犯を放置しておいていいのか。
ラーシュは考えた末に
ある行動をとるのですが
それがどういう行動なのか
どういう結果を招いたかについては
これから読むという方もいるでしょうから
付せておくことにしましょう。
「時効が成立した事件の犯人を
裁くことはできるのか」が
本作品の主題だと
解説では書かれていますけど
長編小説ですので
もちろんそれだけに
とどまるわけではありません。
脳梗塞により
身体の自由や記憶力が
損なわれてもなお
生きるべきかという問題も
ラーシュの意識を通して
示されているわけです。
自分自身、昨年の夏に
痛風の診断を受けて入院し
車椅子に乗ったり、杖をついて歩いたり
といった経験をしたためか
自分の身体が従来通りでないため
イライラするラーシュの気持ちには
親近感が湧きます。
自分の症状を省みない食事を
摂ったりするラーシュの態度や
ヘルパーとのやりとりなども
興味深く読みましたし
特に若い世代との会話は
面白かったです。
邦題は映画のタイトルみたいですが
スウェーデン語の原題は
「瀕死の探偵」という意味です。
ミステリ・ファンなら
シャーロック・ホームズ・シリーズの
短編のタイトルを連想するでしょう。
昨年、翻訳されて話題をまいた
陳浩基『13・67』(2014)の第1話も
「瀕死の探偵」というタイトルを
付けられそうな話でしたけど
かつての名探偵が病床で謎解きをする
という物語パターンが
たまたまにせよ
続けて紹介されたというのは
面白いですね。
ちなみに、解説によれば
本作品はラーシュ・シリーズの
最終作にあたるそうで
現役だったころの活躍を描いた作品も
書かれているのだとか。
で、シリーズ最終作にも関わらず
訳されたのは
CWA(英国推理作家協会)の
インターナショナル・ダガー
(旧・最優秀外国作品賞)を
受賞したからでしょうか。
その他に
スウェーデン推理作家アカデミーの
最優秀長編賞、
国際推理作家協会北欧支部による
ガラスの鍵賞を
受賞しているそうです。
で、オビには「5冠」とあるんですが
残りふたつは何の賞なのか
解説にも書かれていないので
分かりません。
セールス・ポイントなのに
はっきりしないというのは
ちょっと珍しいかもなー。( ̄▽ ̄)