『幽霊の死』ポケミス第3版

(1934/服部達訳、ハヤカワ・ミステリ、

 1954.2.28、1993.9.15. 第3版)

 

今、手許にあるのは

ハヤカワ・ミステリこと

通称ポケミスが

1600番台を突破した際に

記念で復刊された20冊中の1冊で

上に記した通り第3刷にあたります。

 

出た当時、

写真のようなハコには

入っていませんでしたし

いくつか誤植も直されているようですが

その他は、初版本の体裁のまま

復刻されています。

 

 

有名な画家が

死後、1年ごとに公開するように

という遺書と共に作品を残し

その遺言通り

1年ごとに公開され

その場で売りに出される

というレセプションの

第8回目の会場で

殺人事件が発生。

 

画家の未亡人と知り合いであり

当のレセプションに招かれていた

アルバート・キャンピオンが

犯人探しに乗り出す

というお話。

 

 

第一の事件は

殺人の瞬間に会場の灯りが消えて

灯りがついた時に死体が発見されるという

いわゆる暗闇の殺人パターンですし

第二の事件は

毒殺に使った毒の種類が

ちょっと珍しいのですけれど

いわゆるトリックの興味で読ませる

というタイプの作品ではありません。

 

また、犯人は

第一の殺人が起きたあと、

第10章の最後(118ページ。

だいたい全体の半分弱あたり)で

読者に示唆されます。

 

そのあと第二の殺人が起きて

キャンピオンも

スタニスラウス・オーツ警部に

犯人を示唆しますが

証拠がない。

 

第三の殺人が起きる

きっかけとなる出来事の現場におり

犯人の意思にキャンピオンが気づいてからの

第19章(198ページ)以降ようやく

犯人とのかけひきや心理闘争が

サスペンスを生むという次第。

 

 

最初に読んだ時は

犯人の誘いに乗って

キャンピオンが自分を囮にする

展開の場面が

印象に残ったものの

犯人は途中で分かっちゃうし

トリックも小粒で今ひとつなので

こんなものかなあ

という感じがしたものでした。

 

今回、久しぶりに読み返したら

第10章の最後で犯人が分かったあと

第三の殺人を起こす動機となる

出来事が起きる場面に

強烈なサスペンスを感じただけでなく

自我を肥大化させた犯人のキャラクターに

強い嫌悪感を催され

たいそう面白く読めました。

 

犯人探しやトリックの興味を

強く求める方には

おすすめできないですけど

犯罪者の強烈なキャラクターに

興味があるという方なら

いささか古色がついてはいますが

楽しめるのではないかと思います。

 

第一の殺人における

犯人のある行動は

その性格とマッチしているというか

その行動が逆に

犯人の性格を示すことにもなっていて

そういうところ

上手いなあと思いますし。

 

 

ところで

これまでも何回か書いてきましたが

マージェリー・アリンガムは

『幽霊の死』から

その作風を変えたといわれています。

 

それは

ハワード・ヘイクラフトという

アメリカの探偵小説史家が

『娯楽としての殺人』(1942)の中で

述べていることです。

 

それをふまえて江戸川乱歩が

本書の解説などで紹介することで

定説として

ミステリ・ファンの人口に

膾炙するようになりました。

 

 

その説は

ヘイクラフトの創意だと

思っていたのですけど

今回、乱歩の解説を読み直していたら

ヘイクラフトの引用文中に

「アリンガム自身が

この本に書いている序文でも

分るのだが」という一節があり

『幽霊の死』の原書には序文があって

ヘイクラフトはそれに基づいている

ということを

うかつにも今ごろ気づかされました。

 

ポケミス版には

序文が付いていないこともあって

これにはびっくり。

 

さっそく Kindle 版のテキストを

「なか見!検索」でチェックしてみたら

短いものですが

確かに序文が付いていました。

 

些細なことのように

思われるかもしれませんけど

自分的にはちょっとした発見で

アリンガムに対する見方が、ないしは

キャンピオン・シリーズに対する見方が

ちょっとだけ変わった次第です。

 

 

何がどう変わったかというのは

機会があればその内に。

 

それにしても

今後もし、新訳が出るとしたら

序文込みで訳されることを

期待したいですね。

 

 

原書には

図版も付いているようですので

もし新訳が出ることがあれば

そちらも付けてほしいです。

 

もっとも図版に関しては

Kindle 版に付いているのなら

そちらでもいいわけですけれど。

 

 

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