『手をやく捜査網』

(1932/鈴木幸夫訳、六興・出版部、1957.12.20)

 

今はない六興出版

かつて出していた

Rocco Candle Mysteries

(六興キャンドル・ミステリーズ)

という叢書の1冊。

 

翻訳されたものの中では

長編第3作『ミステリー・マイル』(1930)に

続く作品なのですけど

間に Look to the Lady(1931)が

発表されているので

長編としては第5作目にあたります。

 

『幽霊の死』(1934)以前の

前期作品にあたるのですが

冒険小説テイストの作品ではなく

謎解きの興味を中心とした

いわゆる本格ものになります。

 

 

キャンピオンが

都会の片隅のような場所で

依頼人を待っているところへ

スタニスラス・オーツ警部が

来合わせます。

 

ちなみにオーツ警部は

キャンピオン・シリーズにおける

名探偵に協力的な警官

というスタンスのキャラクターで

『ミステリー・マイル』にも

名前は出てきてました。

 

前作 Look to the Lady の内容が

分からないので、あれですけど

本作品で初めて

キャンピオンとの協力関係が描かれます。

 

それはともかく

キャンピオンが待っていた場所で

彼の依頼人と

オーツ警部を尾行していた何者かが遭遇。

 

キャンピオンの依頼人は

その謎の尾行者を知っているようでしたが

そのことにはふれずに

キャンピオンに調査を依頼します。

 

その調査というのは

自分がコンパニオンとして入っている

親戚の一族の

失踪した伯父を捜してほしい

というものでしたが

その依頼をした折も折

当の伯父の死体が発見された

という新聞の号外が届きます。

 

失踪人調査は

殺人かもしれない事件の調査となり

キャンピオンが現地に赴くと

第二の殺人事件が起きる……

というお話です。

 

 

典型的なお屋敷もののミステリで

真相はかなりトリッキーなもの。

 

今回が再読なんですが

真相はすっかり忘れてました。(^^ゞ

 

最初に読んだ時は

ディクスン・カーの某長編や

泡坂妻夫の某長編を

連想しましたが

今回、再読してみて

もともとのネタがあるとすれば

コナン・ドイルの某短編かと

思った次第です。

 

 

今回の依頼人は

『ミステリー・マイル』の

領主館の兄妹の妹と知り合いで

ミステリー・マイル村事件の顛末を知って

キャンピオンに依頼しようと思った

ということになっています。

 

最初に読んだ時は

訳注もありませんでしたし

よくあるパターンとして

普通に読み流していましたが

『ミステリー・マイル』を

読んだあとだったこともあり

今回はちょっと

おおっと思ったものでした。

 

というか

今回の作品を読んで

キャンピオンの

領主館の兄妹の妹への想いが

はっきりしたことに

ちょっと驚かされたのでした。

 

 

原題は Police at the Funeral

直訳すれば

「葬儀場の警官」

という意味になります。

 

ただ、作中に

葬儀場は出てこないので

おそらく

何か文学作品か

諺ないし慣用句の類いを

ふまえたものではないでしょうか。

 

検索してみても

アリンガムの本作品が

トップでヒットするばかりなので

何をふまえたものなのか

残念ながらいまだに不明。

 

「手をやく捜査網」という邦題は

内容のいかんに関わらず

捜査が難行していれば

何にでも当てはまるので

付けも付けたり

といった感じですね。( ̄▽ ̄)

 

 

なお、森英俊の

『世界ミステリ作家事典[本格派篇]』(1998)

を繙いてみると

本作品は抄訳とありますが

割と違和感なく読めますので

極端な抄訳ではない感じがします。

 

とはいえ

訳注などもほとんどありませんし

(原文に当たっていないのにいうのも何ですけど)

死者の名前が出てきた時の決まり文句

God bless you を

「なまんだぶ」とか訳していて

訳文が古いのは否めませんので

新訳が出ることを望みたいところです。

 

それにしても

God bless you を

「なまんだぶ」と訳すこと自体は

キリスト教国の話であることを無視すれば

なかなかの名訳ではないかと

思いましたけど。( ̄▽ ̄)

 
 
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