『世紀末の円舞曲』

(東芝EMI: TOCT-9425、1996.4.24)

 

先に紹介した

「夢見るシャンソン人形

〜デジタル人編〜」を歌うクミコが

改名前の名義で出した1枚。

 

前にも書いた通り

クミコについての

Wikipedia の記事を読んで

興味を持ち

Amazon で購入しました。

 

 

Wikipedia の記事で目を引いたのが

「茶目子の一日」を

カバーしているということ。

 

「茶目子の一日」というのは

小学生が朝起きて学校に行き

勉強のご褒美に

映画につれて行ってもらうまでを描く

1919(大正8)年にリリースされた

「お伽歌劇」と呼ばれる

オペレッタ風の童謡です。

 

手許には

平井英子が歌って

1929(昭和4)年にリリースした

シングル・レコード(SP盤)の

片面だけを収めたCDがあります。

 

『浅草オペラ 華ひらく大正浪漫』

『浅草オペラ 華ひらく大正浪漫』

(山野楽器 YMCD-1056、1998)

 

このCD自体は

永井荷風作の歌劇

「葛飾情話」(1938)が入っているので

買ったものなんですけど

(大学では一応、文学部でしたからねw)

さすが少女天才歌手・平井英子、

同時収録の「茶目子の一日」が

突出して出来が良くて

(作詞作曲の佐々紅華の功績かしらん?)

「茶目子の一日」全曲を聴きたい!

と思ったものでした。

 

 

今回、久しぶりに

上掲のCDを引っぱり出して

ライナーを読んでみたら

驚いたことに

高橋クミコの名前が出てきました。

 

当時は、高橋クミコって誰?

とか思っていたと思いますが

それが今ごろになって

分かるんですから

長生きはするもんだ。( ̄▽ ̄)

 

 

「茶目子の一日」を目当てに

買おうと思ったのでしたが

買う前に同時収録の曲名を見て

眼を疑いました。

 

藤原義江「討匪行」の替え歌

「異人娼婦の唄」、

戦前の中国や日本において

子どもたちが口ずさんだ

読み人知らずのわらべ歌

「支那の町の支那の子」、

戦時歌謡の「満州娘」など

戦前の特殊な歌がずらりと並んでおり

これをすごいと思わないでか。

 

さらに

1937(昭和12)年の流行歌「煙草屋の娘」

(♪向こう横町の煙草屋の〜)

ブギの女王・笠置シヅ子の「私の猛獣狩り」

西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」

越路吹雪の「ラストダンスは私に」などなど。

 

さすがに

「アカシアの雨がやむとき」は

シリアスに歌ってますが

(ピアノ・アレンジが美しいです)

「ラストダンスを私に」になると

超コミカル。

 

こんなにコミカルに歌う人なんて

聴いたことがないのはもちろん

聞いたこともありません。

 

伊藤咲子の「乙女のワルツ」も

こうした文脈に沿って

ストリングス・アレンジで歌われると

まるで戦前の流行歌のよう。

 

ほかに

あがた森魚の

「最后のダンスステップ」

「誰が悲しみのバンドネオン」のカバーや

クルト・ワイル『三文オペラ』(1928)から

有名な「マック・ザ・ナイフ」の原曲

「メッキー・メッサーのモリタード」の替え歌

にして、阿部定をモチーフにした

「お定のモリタード」などなど

とにかく、すごい歌ばかりで

ひたすら感動感涙。

 

 

ちなみに

今回、検索して

初めて知ったんですけど

あがた森魚の

「最后のダンスステップ」を収録している

『噫無情』(1974)は

松本隆がプロデュースした

アルバムだったようで。

 

その松本が

高橋クミコの本盤を

気に入ったのは

むべなるかな、という感じ。

 

 

また「支那の町の支那の子」が

久世光彦『一九三四年冬—乱歩』(1993)に

引用されているとは

思いもよらず。

 

未読なのがバレましたけど (^^;

本盤には

その引用バージョンが

収録されています。

 

ライナーには

その久世に加え

日本の音楽文化を研究している

長田暁二(おさだ ぎょうじ)が

「茶目子の一日」について

文章を寄せているのも

ポイント高し。

 

 

各曲のアレンジも良く

「茶目子の一日」と「煙草屋の娘」を

ピアノ一台で伴奏しているのは

絶品です。

 

高橋クミコこと現・クミコの

緩急自在の歌唱が

素晴しいのはもちろん、

曲によっては

一人で何役も歌い分けるあたり

実に見事。

 

これは超おススメ盤だし

超名盤だと思います。

 

 

『愛の讃歌』を紹介した際

『世紀末の円舞曲』が

示しているような世界観こそ

自分の思う「オトナ」な世界に

近いと書きました。

 

それはつまり

アンニュイが退廃まで

振り切ったところや

これは「オトナ」っぽくないとか

バカバカしいとかいわれそうなことを

あえて真面目に真剣に

諧謔をもって表現するところが

むしろ「オトナ」な態度ではないかと

思うからでしてね。

 

世の良識派に反旗を翻しつつ

俗に流れず正面切って

外連(ケレン)の魅力を打ち出した

奇跡の1枚!

 

日本の戦前探偵小説好きなら

ハマること請け合いです。(^_^)v

 

 

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