前の記事でもちょっとふれましたが
今回、必要があって
『真珠郎』(1937)も読み返しました。
こちらは今回で
読むのは3〜4回目くらいかな。
読もうと思った時に
角川文庫版が
どこかに紛れ込んでしまっていて
それこそ
作品の冒頭にあるように
「真珠郎はどこにいる。」
と呟いてしまう一幕もありまして。f^_^;
結局、すぐ出てきた
扶桑社文庫版で読みました。
こちらは
「昭和ミステリ秘宝」シリーズの
第一弾として刊行されたものです。
出た当時は
『真珠郎』なんて
簡単に読めるじゃん
と思っていたものでしたが
現在ではこれすら
現役本ではないようで( ´(ェ)`)
扶桑社文庫版には
1937(昭和12)年の
初刊本に付いていた
江戸川乱歩と水谷準の序文、
横溝の自序と
巻末収録のエッセイ
「私の探偵小説論」が
併せて収録されていて
おトクな1冊になっています。
他に併載短編として
角川文庫版『蝶々殺人事件』既収の
「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」に加え
「首吊船」(以上は1936年発表)と
「焙烙の刑」(1937年発表)が
収められています。
いずれの短編も
由利麟太郎と三津木俊助が
コンビを組んで活躍する作品で
「真珠郎」のみ
由利先生単独の事件となります。
『真珠郎』は
中学生のころに
角川文庫版で読んだ時から
傑作だと思っていました。
今回、読み直して
ミステリ的にはどうよ
と思うところもありましたが
やっぱり
こちらの血をたぎらせてくれる
面白さでした。
特に、真相を知って読むと
あまりに切ない描写が多く
今回はトリック云々よりも
一種の恋愛小説として
より楽しめたという感じです。
また、本作品については
海外ミステリの古典的名作に
インスパイアされたということを
横溝自身も述べていますし
文庫の解説などでも指摘されています。
ただ、今回読み直して思ったのは
江戸川乱歩の「陰獣」(1928)とも
その深いところで
通底するものがあるのではないか
ということでした。
横溝が乱歩の「陰獣」を
換骨奪胎した作品としては
『呪いの塔』(1932)という長編が
知られています。
でも、実をいえば
『真珠郎』の方が
一見するとそうは見えなくとも
より本質的な部分で
換骨奪胎になっているのではないか
と思ったのですけど
さて、いかがでしょう。
ところで
最終章に掲げられている
犯人の手記に
次のような一節があります。
「あなたはきっと、
(略)こういう計画をお聞きになって、
殺人ということを
まるで寄せ算か引き算のように
簡単に考えている(略)を
さぞ不思議にお思いになることでしょう。
そうなのです。
そして、それが(略)の失敗の第一歩でした、
(略)は人間の心理的な変化を
勘定に入れていませんでした。
しかも、その最も恐るべき心理的動揺が、
ほかの人たちに訪れずに、
かくいうわたしのうえに起こったというのは
何んというひにくなことでしょう。」
(扶桑社文庫版 p.214)
『蝶々殺人事件』について書いた時にふれた
プロット上の通底する部分というのは
上に引用した箇所でした。
『真珠郎』の
現代ミステリにも通ずる新しさは
実に、上に引用した部分にあると思います。
そこらへんは
直接、原作にあたってください
といいたいところですが
先に書いたように
現在ではこの本すら
入手難だということで
残念としかいいようがありません。
もっとも
例によって
角川文庫版をベースとした
Kindle 版でなら
簡単に入手できるようで。
Amazon で検索してみたら
扶桑社文庫版も
中古で安く買えるみたいですね。
Kindle 版で使われている
カバー・イラストは
自分が最初に読んだ角川文庫版と
同じものです。
くやしくって
もう一度、探してみたところ
ようやく見つけ出しました。
(角川文庫、1974.10.20/1977.4.30. 第11刷)
「真珠郎」の他に
「孔雀屏風」(1940年発表)という
ノン・シリーズものの短編が
収録されています。
表紙のイラストはもちろん
杉本一文。
ただ、このイラスト、
ネタばらしともなっていることに
今の今、気づいたんですけど
大丈夫なのか知らん。
……と思って検索してみたら
やっぱり気づいている人は
たくさんいるみたいですね。
未読の方は
ゆめゆめ検索されませぬように。(^▽^;)
それはともかく
真珠郎といえば
上のイラストが思い浮かぶため
1978(昭和53)年に
古谷一行の金田一ものとして
テレビドラマ化されると知った時は
どうなるかと興味津々だったのも
今となっては良い思い出。
その映像化については
ずいぶん昔のことですし
映像ソフトを入手していないこともあり
(今では簡単に手に入るのですが……)
また、手に入れて観た上で
機会があればということに
させてもらって
例によって長文深謝でした。m(_ _ )m