(KADOKAWA/エンターブレイン
BEAM COMIX、2016.10.24)
書店のまんが売場で見かけた時
十蘭をコミカライズした
本が出ているのか!
と、びっくりでした。
描き手は
雑誌『ガロ』から
デビューしたようですが
そういわれると
絵柄はいかにも
それっぽい絵柄です。
久生十蘭(ひさお・じゅうらん)は
探偵小説ファンに
その名を知られた存在ですが
探偵小説ばかり書いていたわけではなく
特に探偵小説ファン
というわけではない小説読みにも
ファンの多い作家です。
彫心鏤骨の文体を持つ
言葉の魔術師ともいわれる
作家だけあって
コミカライズは不可能ではないか
と思っていたのですが
読んでみると
意外としっくりしているので
感心してしまいました。
「姦(かしまし)」なんて
電話で喋る女性の語りだけで
書かれているため
コミカライズしたら
そういう語りの面白さが
薄れるんじゃないかと思いますし
そもそも絵にならないだろう
とも思っていましたけど
なんのなんの
見事にまんが化されています。
しかも
まんがで読むと
プロットがクリアになって
なるほどこういう話であったか
と、分かるというか
普通に書けば書いたで
普通に面白い話になるのに
そうはしない
十蘭のスタイリストぶりが
あぶり出されてくるような
気がしたことでした。
あと、「予言」の場合
奥さんの行動が
主人公の深層心理のあらわれか
ある人物の暗示によるものなのか
今回読んでみて
初めて気になりました。
こんなふうに
新しい視点を得られて
ちょっとトクした気分です。(^_^)
本書収録の二編は
自分は昔
教養文庫の『昆虫図』で読みました。
(社会思想社・現代教養文庫、1976.12.15)
『久生十蘭傑作集』の第4巻にあたり
確か古本で買いました。
買った当初は
普通の探偵小説ではないと思い
積ん読のままでしたが f^_^;
その後、一念発起して
傑作集全5巻を通読しました。
こちらは、もちろん
とっくのとうに絶版です。
そのかわり
(ということになりますか)
今では岩波文庫の
『久生十蘭短篇選』に
収録されているので
そちらで簡単に読めます。
(岩波文庫、2009.5.15)
ただし「姦」は
雑誌初出タイトルの
「猪鹿蝶(いのしかちょう)」
という題で
収められています。
岩波文庫のテキストは
初出雑誌に拠ったようですけど
それによって大きな違いが
あるのかどうか
比べたことがないので
分かりません。
国書刊行会版の全集に
校閲が載っていると思うので
気になる方はそちらで
ご確認ください。
まんがの描き手である河井克夫が
どちらの文庫に拠ったのか
どちらでもなく
ふたつある全集の
どちらかに拠ったのかは
不明です。
世代的にいって、また
「姦」という題名からして
教養文庫版か
三一書房版の全集でしょうか。
河井克夫は
所属事務所のプロフィールによれば
大河ドラマ『軍師勘兵衛』や
朝ドラ『あまちゃん』
松尾スズキ監督の映画にも出演している
役者でもあるようですが
自分はテレビも映画も
特定のものしか観ないので
よく知りません。
ドラマを観ていた人は
ああ、とか、へえ、とか
思いあたるかと考えたので
記しておく次第です。