
(講談社、2015年7月8日発行)
ちょっと必要があって読みました。
『怪盗グリフィン、絶体絶命』(2006)に続く
怪盗グリフィン・シリーズの第2作で
第1作目は未読です。
第1作から順番に読んでいる余裕は
なかったのですが
第1作の事件に登場する
重要なキャラクターが
今回も登場するようですので
そういうことが気になる方は
そちらを読んでからの方がいいでしょう。
怪盗ものというと
古くはアルセーヌ・ルパンが有名ですが
アメリカを舞台とする本作品は
E・D・ホックの
ニック・ヴェルヴェットとか
ローレンス・ブロックの
泥棒バーニイ・シリーズなんかを意識して
キャラクターが造形されているように思います。
こうした burglar キャラのシリーズは
日本の小説では稀で
アジア太平洋戦争前なら
ルパンを模倣したようなキャラが
いたりしますけど
戦後は寡聞にして知りません。
近年ではむしろ
アニメで消費されることが多い
という印象がありまして
『ルパン三世』がその典型、
代表格といえるでしょう。
そういう意味では
グリフィンは珍しいし
アメリカを舞台とした方が
映えるというか
リアルになるだろう
という判断が働いたのも
納得できるわけですね。
第1作はもともと
ミステリーランドという
子ども向けの叢書に
書き下ろされたものなので
現代版のルパンを
狙ったのかもしれませんけど。
今回、目を通したのは
ルイス・キャロルが絡んでいるからですが
メインのストーリーは
フィリップ・K・ディックの
伝記上における
有名なエピソードを
基にしています。
キャロルがどう絡むかは
伏せておくことにしましょう。
参考文献にあげられている
モートン・N・コーエンのキャロル伝は
自分も持っていますけど
未読のまま積んであるので
本書に書かれているような箇所があったのかと
今さらながらに驚かされました。
P・K・ディックは
いっとき、よく読んだので
なんだか懐かしい感じがしました。
なぜか『高い城の男』は
いまだに未読なんですけど。f^_^;
あと
シュレーディンガーの猫が
重要なモチーフとなっています。
量子力学的世界観についても
昔、ハマったことがあるので
これまた懐かしかったです。
ディックや
シュレーディンガーの猫を
ベースやモチーフとしているだけに
SF的設定やガジェットの説明が
たくさん出てきます。
というと敬遠する人が
いるかもしれませんけど
だいたいのイメージが掴めればOKです。
作者も地の文でグリフィンに
説明を聞いても半分も分からない
とか言わせてますから。
とはいえ
正しいんだろうなあと思わせる
書き方がそれなりにされていて
そこはさすがに法月さんな感じ。
脱帽すると同時に
本人も楽しみながら
書いてるんじゃないかなあ
と思いました。
ストーリーも
スパイ・スリラーの文法に則って
狐と狸の騙しあいが
サクサクと語られていて読みやすく
楽しみながら書いていることが
うかがえました。
実際はどうだか知りませんけどね。( ̄▽ ̄)
キャロルとディックと
猫が好きな方に
おすすめの1冊です。
実は本書、
猫が登場するミステリ
いわゆる猫ミスでもあるのでした。

以下は蛇足です。
ネタバレはしていませんが
いわゆる後期クイーン的問題に
関心がない人には
どうでもいいことなので
蛇足と称するわけです。
本書の最後は
ディック風なんでしょうけど
カート・ヴォネガットを
連想させるところも
あったり。
この最後の展開を読んで
思いついたことがありました。
いわゆる後期クイーン的問題を
最初に問題にしたのは
法月さんのエッセイ
「初期クイーン論」なのですが
それ以来、様々な議論が
なされてきました。
これについては
Wikipedia にも項目が立てられていますし
検索をかければ
いろいろな解説がヒットしますので
興味のある方はそちらでご確認ください。
最近の自分は
後期クイーン的問題を
絶対的に正しい真実を求めるが故に
迷いを導いてしまうありよう
と捉えています。
そうした問題意識は
現実に対する信頼が揺らいでいる
主体の感性を
背景としているのではないか
そして
現実に対する信頼の揺らぎが
論理による絶対的真実への希求として
現われているのではないか
と考えています。
その意味において
後期クイーン的問題というのは
ひとつの解釈を
責任を持って引き受けること
そういう主体を
自らのものとすることによって
解決するのではないか
と思うわけです。
ところで
『怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』の
ラスト・シーンでは
グリフィンがある現実を選択する場面が
描かれています。
これを
現実に責任を持とうとする主体の登場
というふうに捉えると
法月作品は
後期クイーン的問題から
次のステージに移ったのかもしれない
とか
論じられるかもしれないなあ
なんてことを
思いついたのでした。
妄言多謝。
