『双子座ピアニストは二重人格?』
(音楽之友社、2004.12.5)

副題「音を綴り、言葉を奏でる」

のちにエッセイ1本を加え
『モノ書きピアニストはお尻が痛い』と改題して
2008年に文春文庫から再刊されたようです。

文庫の方は持ってませんで
親本の方を先日
地元の郊外型古本屋で購入したものです。

電車の中で読もうと
持ち歩いて読み進めていたところ
しばらくして
塾の会議の帰りに寄った
池袋のディスクユニオンでも
見つけました。

そっちの方が綺麗でした……(´・ω・`)


青柳いづみこは
ドビュッシー弾きとして有名ですが
自分はドビュッシーよりも
バッハを中心として
バロック時代の音楽が好きなので
あまり接点がありません。

(バロックを弾いた青柳のCDは
 なくもないのですが
 それについては、またの機会に)

ただ、バロックでなくとも
クラシックの楽曲や
作曲家についての話を読むのは
その内容が肌に合えば
嫌いではないのでして
本書も、ドビュッシーの話題が
多いのですけど
面白く読みました。

というのも
ドビュッシーが活躍した時代背景や
その交際関係など
調査したことをふまえて
書かれているからです。


ドビュッシーが
世紀末文学流行の影響を受け
「アッシャー家の崩壊」の
オペラを書こうとして
未刊に終わったという話とか
メーテルリンクの戯曲をオペラ化した際
メーテルリンクが推選する歌手を
使わなかったため批判された話とか。

しかも、その歌手は
メーテルリンクの愛人で
モーリス・ルブランの妹だときては
まるで山田風太郎が書く
明治もののような人間模様に
びっくりさせられます。

ドビュッシーが
耽美作家ピエール・ルイスと
友人であったこと
ルイスと知り合ったのが
メーテルリンク作品の使用をめぐっての
交渉を通してであったことも
人間絵巻の面白さを感じさせますね。


ピアノの師である
安川加壽子の伝記や
祖父・青柳瑞穂の伝記を
書いたことをめぐるエピソードも
興味深かったですね。

祖父の影響で、というか
祖父の本棚の本を読んで
フランス世紀末文芸にふれたというあたり
文化資本という考え方や、その有無に
思いを馳せたりしました。


フランス留学時代の
食をめぐるエッセイも
面白かったですけど
個人的には
物を書くピアニストが嫌われる
という業界の風潮や
新聞にコンサート評を書く批評家へ
苦言を呈するエッセイが
殊に興味深く面白く読めました。

ピアニストは
ピアノを弾いていればいい
弾いているだけでいい
という風潮も問題ですけど
楽曲の背景について調べる労力を費やすなら
演奏向上の努力をすべきだというふうに
背景調査の意義を
まったく理解しない風潮があるというのは
(今はそうでもないのかもしれませんが)
不思議でなりませんでした。

それを不思議に思うのも
古楽の演奏が
作曲された時代の
奏法を調べることから始まる
という考え方に接して
慣れているからかもしれません。

ですから古楽が普及した今では
テクニックの練習だけしていろというのは
少数意見になったのかもしれませんけど
音楽業界のことは詳しくないので
どうだか、分かりません。

批評家のレビューによって
デビューしたばかりの演奏家の運命が変わる
ということに
批評家は自覚的であるべきだし
音というのはその場で消えるのだから
恣意的な(直感的な)批評でなく
演奏される楽曲の背景など
充分に調べてから臨むべきではないか
というのも
なるほどなあと思った次第です。

これも現在、どうなっているのか
相変わらずなのか
興味は尽きないのですけれど。


面白かったので
以前買ったまま未読だった
『ショパンに飽きたら、ミステリー』

『ショパンに飽きたら、ミステリー』
(国書刊行会、1996.11.5)

も、良いきっかけとばかりに
読了しました。

こちらも2000年に
東京創元社の創元ライブラリーという
文庫版の叢書から再刊されていますが
持ってるのは初刊本の方だけです。

雑誌『EQ』連載時に
ときどき眼を通していたので
単行本としては未読だったわけですが
『双子座ピアニストは二重人格?』を
読んだあとに読むと
妙に腑に落ちる箇所が多くて
雑誌で読んだ時よりも
味わい深かったです。
(そんな気がしましたw)


そんなこんなで
今の気分は
青柳いづみこのプチ・マイブーム
といったところで
これからしばらく
青柳いづみこの本を
探してみようかと思っている次第です。


なお
こちらのブログでは以前
青柳の著書
『六本指のゴルトベルク』(2009)を
紹介したことがあります。

ちなみに上の記事では
本棚の前に「断って」と書いているけど
「立って」の誤記ですね。

こんなのはいい方で
神西敦子の演奏した
『ゴルトベルク変奏曲』のCDを
紹介した記事では
青柳瑞穂の「娘」と書いてますけど
「孫」の間違いだし。

両方とも、今回
遅ればせではありますが
直しておくことにしました。

失礼いたしました。m(_ _)m


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