『陸奥A子ベストセレクション エイティーズ』
(河出書房新社、2015.12.30)

『セブンティーズ』と同時発売で
もちろん同時に買いましたが
今ごろ読み終わった事情は
先に書いた通りです。


「きのうみた夢」と
「こんぺい荘のフランソワ」という
二つの長編の間に
短編「粉雪ポルカ」が
はさまって収められている他
同人誌に発表された単行本未収録の
「九月の1番長い夜」という
見開き作品が収録されています。

エイティーズと
タイトルでは謳っていますが
同人誌発表作以外は
1980年と81年に
発表された作品なので
ちょっと違和感ありますね。

なお「粉雪ポルカ」は
『セブンティーズ』既収の
「樫の木陰でお昼寝すれば」と同様
別冊付録として発表されたもので
これもまた
他の本誌発表作品より
活字のポイントが
ちょっとだけ大きいようです。


「きのうみた夢」は
中学校を卒業する場面から始まる話で
それによって
それまでの関係がいったんチャラになり
親友との関係のみが持続する
という感じは
学校が世界の中心だった
子ども時代の感覚を
よく示しているように思います。

この作品は
環境の変化と関係の変化が
重ね合わされていて
最初から高校を舞台に展開する話よりも
奥行きがあるように感じられます。

だから
単純な恋バナではありません。

親友が自分の兄に恋して
兄に恋人がいることを知り失恋する
という話が絡んできますので
話が重層的になります。

親友の失恋を通して
人間はその表面からは
うかがい知れないところがある
ということに
主人公も気づくわけですが
そういう経験が描かれることで
なんだか
大人の階段を登る
という雰囲気を感じさせる話に
仕上がっているように思います。


主人公の恋が成就することよりも
親友との関係が
物語の中心に
置かれているような印象も受けます。

音楽学校に進んで
チェロを学んでいる友人が
演奏会をきっかけに
海外で勉強するチャンスを得る。

それによって主人公は
親友との別れを経験することになります。

その代わりにボーイフレンドがいる
というふうにも読める
エンディングではありますが
そういう単純な話に
なっていないような気もします。

ボーイフレンドといっても
中学時代に片想いしていた男の子で
その彼と噂になっていた女の子もいて
それもあって主人公は
想いを表に出さずにいたのでした。

その想いに気づいた親友が
男の子に電話をして
代りに想いを告げるという展開からは
男の子は出てくるけど
彼との関係が中心というより
主人公と親友とのホモソーシャルな関係が
中心になっている印象を受けました。

これは
「おとめチックまんが」
という言葉が与える
一般的な印象からは
かなり違うような気がしますけど
どうでしょう。


ちなみに
ラジオの深夜放送にリクエストを送って
メッセージが読まれ
それが恋の告白にもなる
という展開は
悪い意味ではなく
時代だなあという気がしますね。

今の子にはもう
分からないんじゃないかしらん。( ̄▽ ̄)


もうひとつの長編
「こんぺい荘のフランソワ」は
売れないイラストレーターという
職業人が主人公となります。

最終的に結ばれる相手は
イラストを担当していた雑誌を出している
弱小出版社に務めていた男性社員で
まだまだ、ふわふわしてはいますけど
おとめチックな学園趣味を
一歩抜け出している
という意味で
ターニング・ポイント的な作品と
いえるのかもしれません。

そして
自分は自分らしくてもいい
ということを
誰かに見つけてもらうのではなく
それが自分だ仕方がないと
自分で気づくというあたりが
『セブンティーズ』に収録されていた
「雪雪物語」とは
大きく異なるところだと思います。

それにこの話
男性の方は
陶芸の勉強をするために
僻地の島に行くんですが
主人公の夢の邪魔をしちゃいけないから
いっしょになってほしいと
言い出せないままでして
イラストの公募で佳作を取った主人公が
自分から告白する
というストーリーなんですよね。

男性目線の
君はそのままでいい
自分が守ってあげる
という話とは
大いに違うわけで
そこらへんが80年代初頭の
陸奥A子のスタンスであったかと
ちょっと感慨深いものがありました。


ま、こういう読みは
昨年、河出書房新社から出たムック
『陸奥A子
 ——『りぼん』おとめチック♥ワールド』

の記事にも
書いてあったような気がしますし
同書を読んだ人には
今さらな感じがされる
感想だったかと思いますが
初めて読んだ時には
思いつきも気づきもしなかったことを
今回、考えることができて
自分なりに腑に落ちましたので
心おぼえ代わりに
書いておく次第です。

そういう個人的な
心おぼえ的なものを
最後までお読みいただき
ありがとうございました。


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