『陸奥A子ベストセレクション セブンティーズ』
(河出書房新社、2015.12.30)

昨年末に出たとき
買っておいたんですが
多事多端の折から
なかなか読めないでいたものです。

ようやく読み終わりました。


長編「歌い忘れた1小節」の他
「おいしい恋グスリ」
「雪雪物語」
「樫の木陰でお昼寝すれば」
「木枯ソングでスキップラララ」
「いつのまにか春の色」
「セプテンバーストーリー」の各短編と
「れもんばばろあの夢」という
同人誌に発表したままの
単行本未収録作を加えた
全8編を収録したアンソロジーです。

どの作品も
一度は読んでいるはずなのですが
「木枯ソングでスキップラララ」と
「セプテンバーストーリー」は
こんな話、あったっけという感じで
ちょっと記憶が曖昧でした。


前にも書きました
「樫の木陰でお昼寝すれば」は
クラスの女子が貸してくれた
自分が初めて読んだ陸奥A子の
コミックスの表題作
……かどうかは曖昧なのですが
ヒロインの病気が喘息で
自分も喘息だったことから
非常に印象に残っている話です。

そのわりには
前回の記事を見てみると
「樫の木陰」を
「楡の木蔭」と間違って
記してますけど(スミマセン f^_^; )

ちなみに
今回、こうして並べられて
初めて分かったのですが
他の作品に比べて
ネームを始めとして
活字のポイントが大きいですね。

コミックスもそうだったかなあ。

「樫の木陰でお昼寝すれば」は
本誌の別冊付録が初出だったので
判型が違うからなのでしょうけど
それにしても極端に違う感じがして
びっくりでした。


「おいしい恋グスリ」の主人公は
津島さんと太宰くんで
分かる人には分かるお遊び。

これを最初に読んだ当時
自分がそのお遊びに
気づいていたかどうかは
まったく覚えてませんが。


「木枯ソングでスキップラララ」で
ヒロインが憧れる
大学生が通うのはQ大で
これは明らかに九州大学。

陸奥A子が九州生まれだと知ると
なるほどねー、な感じです。


「雪雪物語」は
彼氏に似合うような
知的な女性になりたいと思い
猛勉強を始める女の子が主人公で
最終的には失敗してしまうのですが
変わらない方がいい
今のままの君がいい
という
この手の少女まんがから
たいていの人がイメージする
お約束のイデオロギーが描かれます。

初めて読んだ当時も
うんうんと頷いていた気がしますが
実をいえば
ここまでストレートなものは
珍しいのではないかと
今回、他のを読んで気づきました。


その証左ともいえそうな作品が
初の連載長編だった
「歌い忘れた1小節」です。

この作品も一見すると
変わらないそのままの君でいい
というイデオロギーの
作品のように見えますが
ヒロインはそう言われる前に
親やボーフレンドにも内緒で
九州へと一人旅行をしているんですね。

ボーフレンドの方は
親にはともかく
自分には言ってほしかったと思ってしまい
そういう思いがわだかまりとなり
それがきっかけとなって
関係がギクシャクしてしまう。

その関係回復の顛末を描くのですが
変わらないそのままの君は
実は知らない間に変わっていた
少なくとも男性側の視点からは
見えない部分があった
ということに男性が気づくことが
ベースとなって
物語が展開しているわけです。

これは「雪雪物語」のように
男性に合わせようとして
変わろうとして失敗した果てに
元の自分を認めてもらい
男性の庇護下におかれて関係が安定する
という物語とは
かなり違うように思います。


実をいえば
「歌い忘れた1小節」が発表されたのは
1979年のことで
80年代の直前だったわけです。

それに対して
「雪雪物語」の方は
デビュー3年目の
1975年に発表された
いってみれば初期作品です。

「歌い忘れた1小節」は
セブンティーズに収録されましたけど
80年代に描かれる作品世界を
すでに先取りしているのだと
いえるかもしれません。

ではその80年代の作品とは
どういう特徴を持っているか
という点については
また記事を改めて書くことにします。


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