あけましておめでとうございます。
今年は申年
というわけで
猿が絡むミステリといえばこれでしょ
というくらいの傑作
エリザベス・フェラーズの
『猿来たりなば』を
年初の一冊にしてみました。

(1942/中村有希訳、創元推理文庫、1998.9.25)
誘拐事件の依頼を受けた
ジャーナリストのトビー・ダイクと
その相棒のジョージは
地方の小駅に降り立ちます。
しばらくすると迎えが来て
依頼主のいる館に向かったトビーは
誘拐されたのが人間ではなく
猿であることを知らされます。
ところが館に着いて早々
猿が死んでいるのを発見され
トビーは猿殺しの謎に
取り組むことになるのでした。
エリザベス・フェラーズは
この作品が訳される前までに
ハヤカワ・ミステリで2冊ほど
翻訳が出ていました。
それが1950年代半ばのこと。
以後はたまに短編が訳されるくらいで
ほとんど忘れられていた作家でした。
ところがこの作品が訳されて
ミステリ・ファンの間で話題となり
5冊あるトビー・ダイク・シリーズが
すべて翻訳されるほど人気を博しました。
ハヤカワ・ミステリで出ていた
『私が見たと蠅は言う』(1945)が新訳されて
ハヤカワ・ミステリ文庫に入るほどでしたが
その後はぱたりと翻訳が途絶えてしまい
現在に至ります。
フェラーズは
70年代から90年代にかけて
いくつかシリーズものを書いてはいますけど
(残念ながらすべて未訳です)
その作品のほとんどは
ノン・シリーズものです。
そのノン・シリーズものは
ハヤカワ・ミステリで出た2冊を含め
これまでに4冊出ていますが
ほとんど話題にならなかったといっても
過言ではないでしょう。
話題になっていたら
次々と訳されていたはずですし。
デビュー当初の5作である
トビー・ダイク・シリーズは
いわば例外だったわけで
その例外的作品で
作風や作家イメージが
印象づけられてしまったために
かえってノン・シリーズが霞んでしまった
という気がします。
それはそれとして
『猿来たりなば』は
驚くべき傑作でした。
なぜ猿が殺されねばならなかったのか
という謎を
論理的に解決するだけでなく
きちんと伏線を張り巡らし
トボケたユーモアにくるんで
テンポよく運んでいくあたり
これがデビューしてから
4作目の作品とは思えないくらい達者です。
冒頭の地方の駅に着いてから
迎えの車が到着するまでの描写は
泡坂妻夫を彷彿させるトボケぶりで
実に楽しい。
最初に訳されたときは
シリーズのコンセプトが分からず
トビー・ダイクが
名探偵ならぬ迷探偵で
相棒のジョージが
真の名探偵というあたりが
ピンとこなかったんですけれども
シリーズがすべて訳された現在では
そこらへんも素直に楽しめますし
訳も実にこなれていて見事。
見事といえば
邦題もキャッチーで上手い。
原題は
Don't Monkey with Murder ですが
この場合の monkey は動詞になります。
monkey with ... で
「もてあそぶ、ふざける」
「危ないものに手を出す」
という意味があるので
原題をそのまま訳すと
「殺人をもてあそぶな」
「殺しに手を出すな」
という意味になるかと思います。
それを
猿がやってきて事件が起きる
という内容から
「猿来たりなば」
としたセンスには脱帽です。
版元在庫は品切れのようですが
Amazon などで検索すれば
古本で簡単に手に入りますので
未読の方がいらっしゃいましたら
ぜひ一読されんことを。

今年は申年
というわけで
猿が絡むミステリといえばこれでしょ
というくらいの傑作
エリザベス・フェラーズの
『猿来たりなば』を
年初の一冊にしてみました。

(1942/中村有希訳、創元推理文庫、1998.9.25)
誘拐事件の依頼を受けた
ジャーナリストのトビー・ダイクと
その相棒のジョージは
地方の小駅に降り立ちます。
しばらくすると迎えが来て
依頼主のいる館に向かったトビーは
誘拐されたのが人間ではなく
猿であることを知らされます。
ところが館に着いて早々
猿が死んでいるのを発見され
トビーは猿殺しの謎に
取り組むことになるのでした。
エリザベス・フェラーズは
この作品が訳される前までに
ハヤカワ・ミステリで2冊ほど
翻訳が出ていました。
それが1950年代半ばのこと。
以後はたまに短編が訳されるくらいで
ほとんど忘れられていた作家でした。
ところがこの作品が訳されて
ミステリ・ファンの間で話題となり
5冊あるトビー・ダイク・シリーズが
すべて翻訳されるほど人気を博しました。
ハヤカワ・ミステリで出ていた
『私が見たと蠅は言う』(1945)が新訳されて
ハヤカワ・ミステリ文庫に入るほどでしたが
その後はぱたりと翻訳が途絶えてしまい
現在に至ります。
フェラーズは
70年代から90年代にかけて
いくつかシリーズものを書いてはいますけど
(残念ながらすべて未訳です)
その作品のほとんどは
ノン・シリーズものです。
そのノン・シリーズものは
ハヤカワ・ミステリで出た2冊を含め
これまでに4冊出ていますが
ほとんど話題にならなかったといっても
過言ではないでしょう。
話題になっていたら
次々と訳されていたはずですし。
デビュー当初の5作である
トビー・ダイク・シリーズは
いわば例外だったわけで
その例外的作品で
作風や作家イメージが
印象づけられてしまったために
かえってノン・シリーズが霞んでしまった
という気がします。
それはそれとして
『猿来たりなば』は
驚くべき傑作でした。
なぜ猿が殺されねばならなかったのか
という謎を
論理的に解決するだけでなく
きちんと伏線を張り巡らし
トボケたユーモアにくるんで
テンポよく運んでいくあたり
これがデビューしてから
4作目の作品とは思えないくらい達者です。
冒頭の地方の駅に着いてから
迎えの車が到着するまでの描写は
泡坂妻夫を彷彿させるトボケぶりで
実に楽しい。
最初に訳されたときは
シリーズのコンセプトが分からず
トビー・ダイクが
名探偵ならぬ迷探偵で
相棒のジョージが
真の名探偵というあたりが
ピンとこなかったんですけれども
シリーズがすべて訳された現在では
そこらへんも素直に楽しめますし
訳も実にこなれていて見事。
見事といえば
邦題もキャッチーで上手い。
原題は
Don't Monkey with Murder ですが
この場合の monkey は動詞になります。
monkey with ... で
「もてあそぶ、ふざける」
「危ないものに手を出す」
という意味があるので
原題をそのまま訳すと
「殺人をもてあそぶな」
「殺しに手を出すな」
という意味になるかと思います。
それを
猿がやってきて事件が起きる
という内容から
「猿来たりなば」
としたセンスには脱帽です。
版元在庫は品切れのようですが
Amazon などで検索すれば
古本で簡単に手に入りますので
未読の方がいらっしゃいましたら
ぜひ一読されんことを。
