『アメリ』サントラ盤
(東芝EMI VJCP-68352、2001.10.24)

映画『アメリ』のサントラには
音楽を担当したヤン・ティルセンの
過去のアルバムに収録されていて
そこからそのまま使われた曲が
いくつかあります。

そもそも『アメリ』の監督
ジャン=ピエール・ジュネが
ヤン・ティルセンの曲を使おうと思ったのは
助手の女性が車でかけていたのを聴いて
心を奪われたからだと
サントラ盤の日本語のライナーに
紹介されています。

(ライナーを執筆したのは
 当時、タワーレコード渋谷店で
 サントラを担当している方だそうです。
 今でもそうなのかは分りません)

助手の女性がかけていたのは
ティルセンのどのアルバムなのか
分りませんが
そのライナーの記述に触発されて
『アメリ』サントラに使われている
楽曲が入ったアルバムを
中古で購入してみました。


今回紹介する
La valse des monstres(1995)は
ティルセンのデビュー盤で
ここからは
『アメリ』のエンディングでかかった
アルバムのタイトル曲「おばけのワルツ」と
「祝いの客」Le banquet が
採られています。

La valse des monstres
(ici, d'ailleurs / label 7243 8454042 5、1998)

「おばけのワルツ」って
タイトルも曲も印象的ですが
どうしてそういう曲名にしたんだろう
と思ってました。

最初のうちは
ハロウィンかなにかを想像して
ほのぼのとしてたんですが
Wikipedia 英語版の記事を見てみたところ
なんとなんと
伝説的なホラー映画
『フリークス』(1932、米)の
theatrical adaptation として
書かれた曲だとのこと。

theatrical adaptation って何でしょうね。
「劇場公開用の再編集版」でしょうか。

そうと分かれば
Frida という曲は
映画に出てくる小人の曲芸師
フリーダのテーマということだろうし
Cléo au trapèze という曲は
軽業師クレオ(クレオパトラ)の
テーマということだろうと
次から次へと分かってきて
ちょっと感動。


CDのライナーに freaks とあるのは
そういうことかと腑に落ちましたが
だとすると
「おばけのワルツ」というのは
曲の出自に即していえば
「フリークスのワルツ」
ということになります。

映画の『フリークス』は
日本初公開時の邦題を『怪物団』といい
いまだに観ていないんですけど
(内容を知ってるだけに観るのが怖い)
「フリークスのワルツ」かと
思い至った時は
うわあ、という
ある種の想いにとらわれました。

『フリークス』が
どういう映画か知っている人なら
この気持ち
分かってもらえるのではないかと。

「祝いの客」の「客」って……
と想像すると
うわあってなりますよ、やっぱり。

そういう出自を持つ曲が
『アメリ』に使われると
がらっとイメージが変わるのだから
面白いのですが
と同時に
ジャン=ピエール・ジュネ監督が
皮肉なユーモリストであることを
痛感させられもするのでした。


ちなみに
La valse des monstres の後半6曲は
三島由紀夫の『近代能楽集』に入っている
「綾の鼓」のために書かれた曲だそうです。

Wikipedia 英語版には
theatrical representation とありますけど
「劇場公演」くらいの意味でしょうか。

そうと分かれば
Iwakichi という楽曲は
岩吉のテーマで
Hanako という楽曲は
華子のテーマだろうと察しがつく。

最初に見たとき
なぜ日本人の名前らしきものが
曲のタイトルになっているんだろうと
不思議に思ったのですが
なるほどねーという感じで。

そして、ライナーに書いてあった
le tambourine de soie というのは
「綾の鼓」のフランス語訳かと
腑に落ちた次第でした。

鼓はタンブリンと訳されるのか
そうかー、と
ちょっと切なくなりましたが。

三島の「綾の鼓」は未読ですが
そうと分かれば
ちょっと読みたくなってきました。


要するに
Le valse des monstres というのは
ティルセンが絡んだ映画と演劇の
サントラ集なのでした。

もちろん
そういうトリヴィアルなことを
知らずに聴いても
曲自体はいいので楽しめます。

特に「おばけのワルツ」の
トイ・ピアノ・ソロヴァージョンは絶品。

それでも
『フリークス』の劇伴だと知ると
いい曲だなあ、というのとは別に
なんだかゾクゾクしてくる気がするのは
何とも不思議なものですね。


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