『夏の沈黙』
(2015/古賀弥生訳、東京創元社、2015.5.29)

デビュー作にも関わらず
いきなり世界25ヶ国で
本国と同時出版が決まったという
鳴り物入りの作品です。

著者はイギリスBBCで
美術ドキュメンタリー番組の
ディレクターを担当していた女性だとか。

ですから
イギリス人作家だろうと思いますけど
ファーストネームである Renee の
2番目の e には
フランス語でいうアクサンテギュ、
左下がりのアクセント符合が付いてます。


本作品の主人公も
テレビのドキュメンタリー番組を
制作しているディレクターで
番組で賞を受けたばかり。

弁護士の夫を持ち
息子は家電ショップの研修生で
夫婦の許を離れて独立して暮している
という設定。

そんな主人公の許に
一冊の自費出版小説が届き
そこに描かれているのは
自分が20年前に体験して
秘めてきた出来事であることを知り
愕然とします。

物語はこの主人公の視点と
その小説の書き手の視点から
交互に語られていき
なぜそのような小説が書かれたのか
20年前に何が起きたのか
という興味をフックとして
主人公の日常が
じわりじわりと破壊されていくさまが
描かれていきます。


まあ、書いていいのは
このくらいでしょうか(笑)

メイン・テーマは
たった一言でいえるもの
だと思うのですが
それをいってしまうと
ネタバレになっちゃうので
いえない。

でも、いわないと
作品の読みどころというか
この作品のどこに感銘を受けたか
どこが今日的なのか
ということが
うまく伝えられない。

その意味では
紹介者泣かせの作品だと思います。


物語の途中で
20年前の出来事を描写した
小説の文章がそのまま挿入されており
それが
エロティックなロマンス小説ばりなので
ちょっと辟易させられました。

もっとも
過激な描写だからではありません。

むしろ、通俗的です。

ただ、その文章で何を感じ
何を思うか、というのが
ある意味、キモになってきます。

なぜキモになるのかは
ネタに関わってくるので
いえませんけど(苦笑)


あと
主人公の夫の描かれ方が
リアルなんだけど容赦がないあたり
さすが女性の筆になる作品
という印象を受けました。

ちょっと見、夫の対応は
まったく文句がないように
理想的に書かれているように
感じられますが
そこに自己中で偽善的なものが
垣間見られる。

なんていわれると
男性読者は
溜まらない、立つ瀬がないと
思うかもしれないですけど……。


オビの惹句にあるように
「一気読み必至」とまでは
思いません。

自分の場合、途中何度も
ページを繰る手を止めましたし(苦笑)

でも、少なくとも後半からは
一気読みさせられました。


マーガレット・ミラーや
パトリシア・ハイスミス
といった作家の作品が好き
だという人には
おすすめかもしれません。

巻末の解説では
フランセス・ファイフィールドや
ヘレン・マクロイ、
ギリアン・フリンの『ゴーン・ガール』
といった名前なんかも
あげられています。

あと、自分は
仲間由紀恵主演のドラマ
『サキ』(2013)を
ちょっと連想したこと
付け加えておきます。


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