『トリック交響曲』
(時事通信社、1981年2月20日発行)

ちょっと必要があって
泡坂妻夫のエッセイ集を読みました。


本書は泡坂さんの第1エッセイ集で
後に文春文庫に入りました。

そちらで持っている
と思っていたのですけれど
本が出てこないので
実家から送ってもらった次第です。

が、読み通したのは今回が初めて。f^_^;

買ったのはもちろん
泡坂ファンだったからですが
買った頃はエッセイよりも
小説を読む方を優先させていました。

だって、小説の方が
断然、面白かったんだもの。


この本には
「トリックの交響曲【シンフォニー】」
という長編エッセイが収録されています。

いわゆるトリック分類ものですが
有名な江戸川乱歩の「類別トリック集成」は
ミステリのトリックに限ってのものでした。

そして「『現象別』と『原理別』の
二重構造」になっていたため
奇術のトリックを盛り込むことが難しく
そこで、奇術のトリックを分類しよう
と思い立ち、そこから発展して
「奇術のトリックばかりでなく、
 探偵小説のトリックも
 賭博師のトリックもひっくるめた、
 全てのトリックを
 蒐集分類してしまおうという
 恐ろしいことを
 考えついてしまった」(p.172)結果が
「トリックの交響曲」なのです。

原理に基づいていますので
現象面についての具体的な記述は少なく
奇術名などが羅列されるだけなので
読み手を選ぶような感じがされ
取っ付きにくいところがあります。

だから、今まで読んでこなかった
というわけではありませんけど。( ̄▽ ̄)


ちょっと面白いのは
たとえば鍵穴と糸を使って
密室を構成するトリックを
遠隔操作原理によって成立するトリック
の例としてあげているところ。

「ミステリーと奇術」という
別のエッセイでは
同じトリックを
秘密の通路トリックとして
フーディニの脱出魔術などと
一緒に紹介しています。

こういう捉え方が
乱歩式分類とは違う
泡坂式分類の特徴を
よく示しているように思います。

もっとも
優れたミステリに
なるかならないかというのは
トリックの原理や現象だけでなく
プレゼンテーションに
左右されるものなので
このエッセイを読んだだけで
優れたミステリが書けるわけでは
ありませんけど。


トリック趣味から離れたエッセイに
「七福神巡り」というのがあって
近所にある
七福神ゆかりの名前がついた
蕎麦屋や酒屋やバーに行って
お酒を飲むという散歩の顛末を描いたもの。

これを初めて読んだときは
(高校生の時だったと思いますが)
さほど、とは思いませんでしたが
酒呑みになってしまった現在の自分にとっては
無類に粋で面白い文章でありました。

やってみたくなりましたが
現状では、このオチは付けようがないので
断念するしかありませぬ。o(TωT )


ちなみに、本エッセイ集の初版本は
ノンブル(ページ番号)の
打ち方が変わっていて
本を開いたときの右ページ
下側の左端、喉に寄せて打たれています。

『トリック交響曲』ノンブル

おまけに上の写真でも分かる通り
左ページ(奇数ページ)には
ノンブルは打たれておりません。

目次でページ数を確認して
読みたいエッセイを繰るときに
(本をあまり開かないようにして
 読む癖があることもあって)
ちょっと戸惑うのですが
何か、意図があって
こんな打ち方にしたのかどうか。

それが泡坂さんの意図なのか
装幀家のデザイン的な趣味なのか。

生前の泡坂さんに
お会いする機会があったとき
聞いておけば良かったと
ちょっと悔やまれました。

これも、今ごろ読み終えた
バチというものでしょうか。


ペタしてね



●補足(翌日3:30ごろの)

2枚目の写真の下に
以下の文章を追記しておきました。

「おまけに上の写真でも分かる通り
 左ページ(奇数ページ)には
 ノンブルは打たれておりません。」

写真を見ていただければ分かるんですが
老爺心から、念のため。