ペリイ・メイスン・シリーズで知られる
E・S・ガードナーは
メイスン・シリーズを上梓する前に
パルプ・マガジンの『ブラック・マスク』で
様々なシリーズものや
ノン・シリーズものを
時には別名を使って
大量に発表していました。


いま、
ペリイ・メイスン・シリーズで知られる
と書きましたけど
最近はどうなんでしょう
読まれてるんでしょうか。

そんなことをいう自分も
メイスンものは
1~2作しか読んでないので
偉そうなことはいえないのですが。f^_^;


それはともかく
弁護士ペリイ・メイスンの
創造者として有名なガードナーの
『ブラック・マスク』時代の中編を
全5編収録したのが
今回、取り上げる
『地獄の扉を打ち破れ』です。

『地獄の扉を打ち破れ』
(井上一夫訳、ハヤカワ・ミステリ、1962.4.30)

先にも書いた通り
こちらは原書があるわけではなく
日本オリジナル編集の作品集なので
原書刊行年に相当する
刊行年度表記はありません。

収録された作品はすべて
1932年発行分の『ブラック・マスク』に
載ったものです。

ガードナーが
『ブラック・マスク』時代に有していた
数多くのシリーズ・キャラクターの中から
幻の怪盗エド・ジェンキンスもの2編と
警察の秘密機関員ボブ・ラーキンもの1編、
弁護士ケン・コーニングもの2編が
収められています。


幻の怪盗エド・ジェンキンスは
『ブラック・マスク』の
1925年1月号で初登場しました。

先の記事でふれた「あらごと」の中では
「警察につかまりそうになつても、
 いつもするりと逃げちまうから、
 幻の怪盗とも呼ばれてる」(p.19)
と紹介されています。

暗黒街に身をおく人間ですが
自分がやったのではない犯罪で追われ
身のあかしを立てるために活躍する
というのが
基本的なパターンのようです。

「あらごと」でも
自分がやったのではない殺人事件で
追われるはめに陥ってました。

「拳銃よりもおつむのほうが役に立つ」
という持論の持ち主で
「人間というやつは
 拳銃をたよりにしていると、
 そいつを取り上げられたら最後、
 手も足も出なくなってしまう。
 ところが、脳みそを頼りにしている限り、
 こいつはそうそう簡単に
 取り上げられちまうものじやない」(p.41)
という哲学をが披露されています。

武器よりも頭脳というあたりが
ミステリのヒーローらしいところです。


ボブ・ラーキンは元奇術師で
『ブラック・マスク』の
1924年9月号で初登場。

本書に入っている
シリーズ・キャラクターの中では
エド・ジェンキンスより
わずかに早く生まれた
いちばんの古株です。

「二本の脚で立て」では
メキシコ国境における
麻薬密輸ルートを潰滅させるために
国境警備隊の委託を受けて
行動しているようです。

正義を貫くというよりも
(もちろん彼なりの正義は
 あるわけですが)
冒険的な人生が生き甲斐という
キャラクターのようです。

いわゆるアドヴェンチャラー
冒険家というわけですね。


弁護士ケン・コーニングと
その秘書へレン・ヴェイルは
『ブラック・マスク』1932年11月号に載った
本書収録の「浄い金」が
初登場作になります。

ちなみに、この「浄い金」のみ
訳者は井上一夫ではなく
平出禾(ひらいで・ひいず)になります。

ガードナーの看板シリーズ
ペリイ・メイスンものの
原型ともいわれているようですが
(メイスンものの第1作は
 1933年に刊行されました)
いわれてみればなるほどいう感じで。

地方都市(?)の
市政にまで巣食った悪による妨害に屈せず
依頼人のために尽力する
というストーリーは
本書に収録されている
エド・ジェンキンスものを
髣髴させるところがあります。

当時のアメリカは禁酒法時代で
そういう時代背景をうかがわせる
「浄い金」といい
表題作の「地獄の扉を打ち破れ」といい
法律を背景としているからなのか
エド・ジェンキンスものに比べると
アクションよりも知略の方が
優っている感じがしました。

とはいっても
法廷を舞台に巨悪と戦う
という話ではないんですけどね。

その意味では
ちょっと前に多かった
(と思うのですが)
ローレンス・ブロックの
エイレングラフもののような
法廷に至る前に解決するタイプの
弁護士ものに近い感じです。


エド・ジェンキンスも
ケン・コーニングも
市政をも牛耳る巨悪と戦うわけで
そういうのは
映画などで散々消費された
物語パターンなので
正直、今さらという感じはします。

それに、こういう自警団的な
(といっていいのかな?)
ヒーローや
法自体は尊重するにしても
正義が実現するなら
多少、法を捩じ曲げてもOK、
大きな法体系の中で
個々人の判断力が重視される
というあたり
良きにつけ悪しきにつけ
実にアメリカ的な気がしますね。

が、こういう機会でもなければ
読むこともなかったわけですから
見聞を広げる意味では
まあ、良かったかと思います。


見聞を広げるという点以外にも
ひとつ得したな
と思ったことがあるんですが
それについてはまた
タイトルを改めて。

引っぱるなあ(苦笑)


例によって長文深謝。


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