このところ
盛光社のジュニア・ミステリ・ブックス
ないし
鶴書房盛光社あるいは鶴書房の
ミステリ・ベストセラーズの
話題が続きますが
こういうのは勢いでして
何かひとつ分かると
芋づる式に次々と
分かってくることがあるものですから。
今回、取り上げる
E・S・ガードナー『暗黒街をつぶせ』は
上記のシリーズ第8巻として
(ミステリ・ベストセラーズは
巻数表記がないので第8冊目として)
刊行されたものです。
自分的には
鶴書房のミステリ・ベストセラーズ
といった方が
しっくりくるのですが
それはともかく
このシリーズも8冊目までくると
読んだ記憶はありません。
『暗黒街をつぶせ』というタイトルが
アガサ・クリスティーやエラリー・クイーン、
ディクスン・カーの作品に
親しんでいた子どもにとって
あまり魅力的には
感じられなかったのかも知れませんし
単に、本が図書館になくて(!?)
借りられなかっただけかも知れません。
後に古本で買うこともなく
今に至るわけですが
どうやらこの作品、
お馴染みの(自分にとっては、ですがw)
翻訳作品集成(Japanese Translation List)ameqlist や
ミステリー・推理小説データベース Aga-Search でも
原作が確定されてないようです。
それでも Aga-Search には
本書の書影が掲げられていて
表紙側のカバー袖にあったと思しい
内容紹介文が引用されています。
こちら↓で読むことができます。
http://www.aga-search.com/120-5-2-5e.s.gardner.html
そこに掲げられた紹介文を読むと
幻の怪盗エド・ジェンキンスものらしい。
(鶴書房版では
「ジェンキンズ」のようですが
手元にある翻訳では「ス」と
濁らない表記になってますので
ここでは「ジェンキンス」と書きます)
ここまで分かれば
大人向けの翻訳を基にしているものなら
原作は確定できるはず。
と思って調べたら
たぶんこれだろうという作品が
簡単に確定できました。
確定の根拠となったのは
Aga-Search に引かれた紹介文にある
「暗黒街の黒幕、
ジャック・ベルチャーとの
戦争がはじまって三月目。
ボクはやっと
奴のしっぽをつかんだ」
という部分です。
エド・ジェンキンスものの翻訳は
ミステリ・ベストセラーズの基になった
ジュニア・ミステリ・ブックスが出た
1960年代後半には
2編しか訳されていませんでした。
それは
日本語版エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン
通称・日本語版EQMMに訳載された
「あらごと」(1962年1月号)と
「ブラック・アンド・ホワイト」(同年2月号)の
2編です。

このうち
「ブラック・アンド・ホワイト」の
出だしから数えて第4段落目の文章は
次のようなものでした。
「パッフィ・ジャック・ベルチャーとの
戦争がはじまって、
三月【みつき】目だった。
クラリオン新聞の社長
ロドニー・スティーリが、
この戦いに火をつけて、
娑婆と闇の世界の境の
うす暗いところまで、
わたしの加勢を求めに
おりてきたのだった。」(井上一夫訳)

「ジャック・ベルチャーとの
戦争がはじまって三月目」
という個所が
まったく同じなので
『暗黒街をつぶせ』の原作は
まず「ブラック・アンド・ホワイト」とみて
間違いないでしょう。
「あらごと」と
「ブラック・アンド・ホワイト」とは
前後編にあたるような作品です。
ロドニー・スティーリの娘を
誘拐したギャングが
何者かに殺される。
その現場から
刑事らしき二人組が逃走するのを
目撃していた金髪の女を連れて
エド・ジェンキンスが
暗黒街の黒幕と
つながりのある弁護士を訪れて
供述書を書かせる
という出だしで始まるのが
「あらごと」です。
そのあと、いろいろとあった末に
悪徳警官が逮捕される顛末を描いたのが
「あらごと」という小説なのですが
「ブラック・アンド・ホワイト」は
その時の、目撃していた金髪女が再登場し
悪徳警官の裁判の証人として
かくまわれている
というところから始まります。
金髪女は
色男のチンピラに騙されて
監視の眼をすり抜けて逃げ出したため
ギャングに始末されそうになるところを
ジェンキンスに助けられる。
その後、金髪女は信用できない
と考えたジェンキンスは
ジャック・ベルチャーの
公証人を務めている男のことを思い出す。
トリックを仕掛けて
公証人の手元にある書類を
盗み出したジェンキンスだったが
逆にロドニー・スティーリの娘を
拉致されてしまい
ベルチャーを告発する記事を差し止めるよう
脅迫される、というお話です。
題名の「ブラック・アンド・ホワイト」とは
タイトル・ページの紹介文によれば
印刷物の意味だそうです。
それと、悪玉と善玉という意味を
掛けてあると考えても
いいのかもしれません。
「あらごと」と
「ブラック・アンド・ホワイト」は
内容的には前後編とはいえ
「あらごと」を読んでなくて
「ブラック・アンド・ホワイト」から
読み始めたとしても
ストーリーに入っていけるように
書かれてはいます。
ただ、ジュブナイル訳ではどうでしょうか。
「あらごと」の内容も盛り込んで
リライトしているかもしれず
こればっかりは原本をあたらないと
何ともいえません。
国会図書館蔵書
というより、上野にある
国際こども図書館蔵書は
まだデジタル化されておらず
自宅で目次と内容を照らし合わせる
ということもできませんので
「ブラック・アンド・ホワイト」のみが
原作だ、と断言はできません。
が、おそらく
それのみを基にしたと考えて
間違いないと思いますけどね。
間違ってたら
後日、訂正するということで
ご容赦ください。(^^ゞ
誘拐される新聞社主の令嬢を
若いヒロインに書き変えれば
子ども向きの作品として
ちょうどいいような気がします。
だいたい
Aga-Search に引用されている紹介文の
ジェンキンスの一人称が
「ボク」ですからね。
たぶんヒロインの方も
ジュブナイル向けに
若いお嬢さん風に
変えられていると思います。
これまた、原本に当たらないと
なんともいえませんけれども。
なお、エド・ジェンキンスものの
上記2編は、雑誌掲載後
ハヤカワ・ミステリの
『地獄の扉を打ち破れ』に
収められました。

(井上一夫訳、ハヤカワ・ミステリ、1962.4.30)
日本オリジナル編集なので
原著刊行年はありません。
本体のパラフィンは
古本屋さんの方で
付けたものだと思います。
こちらについては
記事タイトルを改めて
紹介することにしましょう。
長文深謝。

盛光社のジュニア・ミステリ・ブックス
ないし
鶴書房盛光社あるいは鶴書房の
ミステリ・ベストセラーズの
話題が続きますが
こういうのは勢いでして
何かひとつ分かると
芋づる式に次々と
分かってくることがあるものですから。
今回、取り上げる
E・S・ガードナー『暗黒街をつぶせ』は
上記のシリーズ第8巻として
(ミステリ・ベストセラーズは
巻数表記がないので第8冊目として)
刊行されたものです。
自分的には
鶴書房のミステリ・ベストセラーズ
といった方が
しっくりくるのですが
それはともかく
このシリーズも8冊目までくると
読んだ記憶はありません。
『暗黒街をつぶせ』というタイトルが
アガサ・クリスティーやエラリー・クイーン、
ディクスン・カーの作品に
親しんでいた子どもにとって
あまり魅力的には
感じられなかったのかも知れませんし
単に、本が図書館になくて(!?)
借りられなかっただけかも知れません。
後に古本で買うこともなく
今に至るわけですが
どうやらこの作品、
お馴染みの(自分にとっては、ですがw)
翻訳作品集成(Japanese Translation List)ameqlist や
ミステリー・推理小説データベース Aga-Search でも
原作が確定されてないようです。
それでも Aga-Search には
本書の書影が掲げられていて
表紙側のカバー袖にあったと思しい
内容紹介文が引用されています。
こちら↓で読むことができます。
http://www.aga-search.com/120-5-2-5e.s.gardner.html
そこに掲げられた紹介文を読むと
幻の怪盗エド・ジェンキンスものらしい。
(鶴書房版では
「ジェンキンズ」のようですが
手元にある翻訳では「ス」と
濁らない表記になってますので
ここでは「ジェンキンス」と書きます)
ここまで分かれば
大人向けの翻訳を基にしているものなら
原作は確定できるはず。
と思って調べたら
たぶんこれだろうという作品が
簡単に確定できました。
確定の根拠となったのは
Aga-Search に引かれた紹介文にある
「暗黒街の黒幕、
ジャック・ベルチャーとの
戦争がはじまって三月目。
ボクはやっと
奴のしっぽをつかんだ」
という部分です。
エド・ジェンキンスものの翻訳は
ミステリ・ベストセラーズの基になった
ジュニア・ミステリ・ブックスが出た
1960年代後半には
2編しか訳されていませんでした。
それは
日本語版エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン
通称・日本語版EQMMに訳載された
「あらごと」(1962年1月号)と
「ブラック・アンド・ホワイト」(同年2月号)の
2編です。

このうち
「ブラック・アンド・ホワイト」の
出だしから数えて第4段落目の文章は
次のようなものでした。
「パッフィ・ジャック・ベルチャーとの
戦争がはじまって、
三月【みつき】目だった。
クラリオン新聞の社長
ロドニー・スティーリが、
この戦いに火をつけて、
娑婆と闇の世界の境の
うす暗いところまで、
わたしの加勢を求めに
おりてきたのだった。」(井上一夫訳)

「ジャック・ベルチャーとの
戦争がはじまって三月目」
という個所が
まったく同じなので
『暗黒街をつぶせ』の原作は
まず「ブラック・アンド・ホワイト」とみて
間違いないでしょう。
「あらごと」と
「ブラック・アンド・ホワイト」とは
前後編にあたるような作品です。
ロドニー・スティーリの娘を
誘拐したギャングが
何者かに殺される。
その現場から
刑事らしき二人組が逃走するのを
目撃していた金髪の女を連れて
エド・ジェンキンスが
暗黒街の黒幕と
つながりのある弁護士を訪れて
供述書を書かせる
という出だしで始まるのが
「あらごと」です。
そのあと、いろいろとあった末に
悪徳警官が逮捕される顛末を描いたのが
「あらごと」という小説なのですが
「ブラック・アンド・ホワイト」は
その時の、目撃していた金髪女が再登場し
悪徳警官の裁判の証人として
かくまわれている
というところから始まります。
金髪女は
色男のチンピラに騙されて
監視の眼をすり抜けて逃げ出したため
ギャングに始末されそうになるところを
ジェンキンスに助けられる。
その後、金髪女は信用できない
と考えたジェンキンスは
ジャック・ベルチャーの
公証人を務めている男のことを思い出す。
トリックを仕掛けて
公証人の手元にある書類を
盗み出したジェンキンスだったが
逆にロドニー・スティーリの娘を
拉致されてしまい
ベルチャーを告発する記事を差し止めるよう
脅迫される、というお話です。
題名の「ブラック・アンド・ホワイト」とは
タイトル・ページの紹介文によれば
印刷物の意味だそうです。
それと、悪玉と善玉という意味を
掛けてあると考えても
いいのかもしれません。
「あらごと」と
「ブラック・アンド・ホワイト」は
内容的には前後編とはいえ
「あらごと」を読んでなくて
「ブラック・アンド・ホワイト」から
読み始めたとしても
ストーリーに入っていけるように
書かれてはいます。
ただ、ジュブナイル訳ではどうでしょうか。
「あらごと」の内容も盛り込んで
リライトしているかもしれず
こればっかりは原本をあたらないと
何ともいえません。
国会図書館蔵書
というより、上野にある
国際こども図書館蔵書は
まだデジタル化されておらず
自宅で目次と内容を照らし合わせる
ということもできませんので
「ブラック・アンド・ホワイト」のみが
原作だ、と断言はできません。
が、おそらく
それのみを基にしたと考えて
間違いないと思いますけどね。
間違ってたら
後日、訂正するということで
ご容赦ください。(^^ゞ
誘拐される新聞社主の令嬢を
若いヒロインに書き変えれば
子ども向きの作品として
ちょうどいいような気がします。
だいたい
Aga-Search に引用されている紹介文の
ジェンキンスの一人称が
「ボク」ですからね。
たぶんヒロインの方も
ジュブナイル向けに
若いお嬢さん風に
変えられていると思います。
これまた、原本に当たらないと
なんともいえませんけれども。
なお、エド・ジェンキンスものの
上記2編は、雑誌掲載後
ハヤカワ・ミステリの
『地獄の扉を打ち破れ』に
収められました。

(井上一夫訳、ハヤカワ・ミステリ、1962.4.30)
日本オリジナル編集なので
原著刊行年はありません。
本体のパラフィンは
古本屋さんの方で
付けたものだと思います。
こちらについては
記事タイトルを改めて
紹介することにしましょう。
長文深謝。
