『わが名はアーチャー』
(1955/中田耕治訳、ハヤカワ・ミステリ、
 1961.11.30/1969.1.31、再版)

「悪魔のくれた5万ドル」
原作を確かめるために
「自殺した女」を読むついでに
一冊まるまる読み通してみました。

ずいぶん前に古本で買ったものですが
読むのは今回が初めてだったりします。f^_^;


初めて商業誌に売れた短編
「女を探せ」ほか全7編収録。

全編にリュウ・アーチャーが登場しますが
「女を探せ」は最初
アーチャーものではなかった由。

といっても、本書には
訳者あとがきや解説の類いが
付いておらず
別の資料(創元推理文庫の
『ロス・マクドナルド傑作集』の
小鷹信光による解説)で
知ったことですけど。


「女を探せ」
本国版エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン
略してEQMMの第1回短編コンテスト
(要するに短編懸賞)に投稿したもので
本格派であるクイーンの名を冠した雑誌だから
というわけでもないでしょうが
ちょっとしたアリバイ・トリックが出てきます。

海から死体を引き上げるシーンは
「自殺した女」にもありました。

あちらは初めて読んだとき
ちょっと印象的なシーンでしたが
こちらもいろんな含みがあって
なかなか良いシーンだと思います。


やはり本国版EQMMに掲載された
「雲をつかむような女」
法廷ミステリであり
クイーン好みのある趣向が出てきます。

本格ミステリがお好きなら
この作品はおすすめかも。


「ひげのある女」は美術ミステリで
美術館から絵画を盗み出す方法が
推理クイズに使えそうなアイデアでした。

同作品はそれだけで持っているわけでなく
長編にも匹敵しようかというくらいの
力作ではありました。

クイーンにも
「ひげのある女の冒険」という短編が
あったかと思いますけど
意識してるのかしらん?


「不吉な女」も画家が絡むミステリ。

女たらしが悲劇を招くあたり
「自殺する女」にも似てますが
話自体はよくある感じで。


巻頭の「逃げた女」
ギャングのボスや
ファム・ファタールが絡み
殴り合いの暴力シーンもあり
いかにもなハードボイルド作品
という印象です。

アーチャーは
本作では伸されちゃいますが
「ひげのある女」では
健闘してました。
(まさに拳闘なんですけどw)


「雲をつかむような女」同様
飛行機を降り立った空港で依頼人と会う
という出だしの「罪になやむ女」
「女を探せ」の
裏返しのような作品でもありました。

そういうふうに考えると
意外とロス・マクの
ストーリーやプロットの抽き出しは
少ないのかもしれないと思ったり。


以上の紹介からも分かる通り
全編、タイトルに「女」という文字が
入っています。

ただし原題はそうはなってなくて
これは日本語版だけの趣向です。


訳文は、今となっては
やや言葉が古風な感じがします。

ロサンジェルスを
「ロサンジュレス」と訳した本は
初めて見ました。

あと、アーチャーの一人称が
「不吉な女」の地の文だけ
「俺」だったり「ぼく」だったりしてて
旧訳をそのまま使ったのだとしても
まとめるときに手を入れなかったのかと
びっくりでした。


ちょっと面白かったのは
離婚して新しい女と結婚しようと
考えている男が
「人間には、
 自分の好きな生きかたをする
 権利がある」
と言うと、アーチャーが
「一たん、自分の生活を
 きめてしまった以上は
 そんなわけには行かん」(p.200)
と応じる場面と
何の目的で調査をするのか
と問われたアーチャーが
「自分のための目的なんてものはない。
 正義の裁きが行われるのを
 この眼で見たいだけですよ」(p.245)
と答えるところ。

アーチャーの
モラリスティックな人生観というか
責任意識のようなものが
垣間見える気がしたことでした。


それにしても
レイモンド・チャンドラーの短編が
すべて新訳されたのに
ロス・マクの短編が
いまだに旧訳でしか読めないのは
(しかも入手が難しいのは)
ちょっと寂しいような気もしますね。


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