盛光社あるいは鶴書房盛光社の
ジュニア・ミステリ・ブックス
あるいはミステリ・ベストセラーズの
第6巻『真相を追え』(1966)に
ロス・マクドナルドの
「悪魔のくれた5万ドル」が
併録されているということは
前にも書きました。
このロス・マク作品の原作は何か。
こういう場合に頼りにする
翻訳作品集成(Japanese Translation List)ameqlist や
ミステリー・推理小説データベース Aga-Search でも
原作不詳となっていたので
ずーっと気になっていたんですけど
今回、ようやく突き止めました。
いや、もう知ってるよ
という方がいましたら
今回の記事は、読み過ごしていただくか
ご笑覧いただければ幸いです。
前にも書きましたが
国会図書館の蔵書検索で
『真相を追え』で検索すると
同書がデジタル化されていることが
分かります。
そこでデジタルライブラリに飛んで
(検索して出てきた画面の右上
「デジタル化資料」というのを
クリックすると
別ウインドウで開きます)
同書の目次を確認すると
「悪魔のくれた5万ドル」は
以下のような章立てであることが分かります。
・青い目の少女
・姉の行くえ
・からっぽの家
・血ぞめの座席
・黒い銃口
・人ちがい
・エセルは生きている
・溺死体
・殺し屋の影
・メリケン紛のなか
・悲しい真相
・ゆがんだ真実
・悪魔の金
このうちの「エセル」というのに注目して
ロス・マクの作品にあたると
リライトに使った原作が分かるわけです。
便利な時代になったものですね。
そうして当たりをつけた
原作と思しい作品の翻訳を読むと
上の章タイトルが
いちいち対応してますので
おそらく当たりをつけた原作で
間違いないと思います。
その当たりをつけた原作は
『わが名はアーチャー』(1955)に
収録されている
「自殺した女」です。

(1955/中田耕治訳、ハヤカワ・ミステリ、
1961.11.30/1969.1.31、再版)
手許にあった本はハコ付きですが
本体は1969年発行の再版でした。
それはともかく。
「自殺した女」は最初
日本語版『マンハント』の
1959(昭和34)年8月号に
「姉はなぜ消えた?」という邦題で
掲載されました。
たまたま掲載誌を持っていたので
下に書影を掲げておきます。

本作品は
本国版マンハントの1953年10月号に
The Beat-Up Sister という題で掲載され
それが単行本の
『わが名はアーチャー』(1955)に
収録された際
The Suicide と改題されました。
日本語版『マンハント』のタイトル・ページでは
原題が The Beat-Up Sister となってますし
やっぱり初出に拠るものでしょうか。

ちなみに初出時には
訳者名が並記されていませんでした。
目次ページに
翻訳スタッフ名があげられているだけで
誰がどれを訳したのかは
分からないようになっています。
どうしてそういうふうにしたのか
知りません。
「姉はなぜ消えた?」の場合、
後でポケミスに収められたので
おそらく中田耕治訳であろうと
見当がつけられるわけです。
まあ、何はともあれ
読んでみることにしました。
リュウ・アーチャーは
サンフランシスコで
千ドルの料金を取り立てた
仕事の帰りの列車で
成人前の少女
クレア・ララビーと知り合います。
成人前とあえて書いたのは
アーチャーがクレアを食堂車に誘い
酒を勧めたとき
あたしはまだ21歳になってない
(要するに成人前)
と言われるシーンがあるからです。
ここらへん、なんか中年男性が
女子大生をナンパしているような
雰囲気があって
ちょっとびっくりでした。
アーチャーって
もっと真面目だと思ってたので。
クレアの話では
姉のエセルからの送金が途絶えたので
学校を休んで訪ねてきたのだという。
そこでアーチャーは親切心から(?)
クレアを姉の家まで送ることになるんですが
その家はもぬけの殻で
何週間も前に出かけたようでした。
クレアに調査を頼まれたアーチャーは
エセルの別れた夫イルマンを訪ね
そこに来合わせたハイウェイ・パトロールから
セルの車が発見され
車内には血痕が残されていたと聞かされます。
アーチャーはその報告のため
クレアの元に戻るのですが
そこでギャングに襲われて
ギャングはクレアの新しい夫を
追いかけていることを知り
クレアとともに
かつて姉妹が世話になった家に向かいます。
そこで、エセルの運命が分かるのですが
まあ、あらすじの紹介は
ここまでにしときましょう。
上にも書きましたが
アーチャーが女子大生をナンパする
というところ以外は
いつもの、というか
通常のハードボイルド・ミステリで
クレアとアーチャーの探偵物語は
ちょっと赤川次郎の作品を
連想させるようなところもあります。
そういうところから
ジュブナイル用のリライト作品として
選ばれたものと思われます。
(といっても、当時まだ赤川次郎は
デビューしてませんでしたが)
原作を読んでみると
どこにも5万ドルの話は出てこないというか
誰が「悪魔」に相当するのかも分からないし
もしある人物が「悪魔」だとしても
そいつが「くれた」のは
どう考えても2万5千ドルなので
計算が合わない。
リライト版がなんで
「悪魔がくれた5万ドル」という
タイトルになるのか
原作を読んだだけでは
よく分かりません。
これもやっぱり
盛光社ないし盛光社鶴書房の本を
確認しないといけませんね。
でも、読んだ内容と
章タイトルを照らし合わせても
原作が「姉はなぜ消えた?」
あるいは「自殺した女」であることは
間違いないと思われます。
例によって関心のない方には
どうでもいいようなことを
長々と書いてしまいました。
個人的には
ささやかながら
達成感があるのですけど……
長文深謝。

ジュニア・ミステリ・ブックス
あるいはミステリ・ベストセラーズの
第6巻『真相を追え』(1966)に
ロス・マクドナルドの
「悪魔のくれた5万ドル」が
併録されているということは
前にも書きました。
このロス・マク作品の原作は何か。
こういう場合に頼りにする
翻訳作品集成(Japanese Translation List)ameqlist や
ミステリー・推理小説データベース Aga-Search でも
原作不詳となっていたので
ずーっと気になっていたんですけど
今回、ようやく突き止めました。
いや、もう知ってるよ
という方がいましたら
今回の記事は、読み過ごしていただくか
ご笑覧いただければ幸いです。
前にも書きましたが
国会図書館の蔵書検索で
『真相を追え』で検索すると
同書がデジタル化されていることが
分かります。
そこでデジタルライブラリに飛んで
(検索して出てきた画面の右上
「デジタル化資料」というのを
クリックすると
別ウインドウで開きます)
同書の目次を確認すると
「悪魔のくれた5万ドル」は
以下のような章立てであることが分かります。
・青い目の少女
・姉の行くえ
・からっぽの家
・血ぞめの座席
・黒い銃口
・人ちがい
・エセルは生きている
・溺死体
・殺し屋の影
・メリケン紛のなか
・悲しい真相
・ゆがんだ真実
・悪魔の金
このうちの「エセル」というのに注目して
ロス・マクの作品にあたると
リライトに使った原作が分かるわけです。
便利な時代になったものですね。
そうして当たりをつけた
原作と思しい作品の翻訳を読むと
上の章タイトルが
いちいち対応してますので
おそらく当たりをつけた原作で
間違いないと思います。
その当たりをつけた原作は
『わが名はアーチャー』(1955)に
収録されている
「自殺した女」です。

(1955/中田耕治訳、ハヤカワ・ミステリ、
1961.11.30/1969.1.31、再版)
手許にあった本はハコ付きですが
本体は1969年発行の再版でした。
それはともかく。
「自殺した女」は最初
日本語版『マンハント』の
1959(昭和34)年8月号に
「姉はなぜ消えた?」という邦題で
掲載されました。
たまたま掲載誌を持っていたので
下に書影を掲げておきます。

本作品は
本国版マンハントの1953年10月号に
The Beat-Up Sister という題で掲載され
それが単行本の
『わが名はアーチャー』(1955)に
収録された際
The Suicide と改題されました。
日本語版『マンハント』のタイトル・ページでは
原題が The Beat-Up Sister となってますし
やっぱり初出に拠るものでしょうか。

ちなみに初出時には
訳者名が並記されていませんでした。
目次ページに
翻訳スタッフ名があげられているだけで
誰がどれを訳したのかは
分からないようになっています。
どうしてそういうふうにしたのか
知りません。
「姉はなぜ消えた?」の場合、
後でポケミスに収められたので
おそらく中田耕治訳であろうと
見当がつけられるわけです。
まあ、何はともあれ
読んでみることにしました。
リュウ・アーチャーは
サンフランシスコで
千ドルの料金を取り立てた
仕事の帰りの列車で
成人前の少女
クレア・ララビーと知り合います。
成人前とあえて書いたのは
アーチャーがクレアを食堂車に誘い
酒を勧めたとき
あたしはまだ21歳になってない
(要するに成人前)
と言われるシーンがあるからです。
ここらへん、なんか中年男性が
女子大生をナンパしているような
雰囲気があって
ちょっとびっくりでした。
アーチャーって
もっと真面目だと思ってたので。
クレアの話では
姉のエセルからの送金が途絶えたので
学校を休んで訪ねてきたのだという。
そこでアーチャーは親切心から(?)
クレアを姉の家まで送ることになるんですが
その家はもぬけの殻で
何週間も前に出かけたようでした。
クレアに調査を頼まれたアーチャーは
エセルの別れた夫イルマンを訪ね
そこに来合わせたハイウェイ・パトロールから
セルの車が発見され
車内には血痕が残されていたと聞かされます。
アーチャーはその報告のため
クレアの元に戻るのですが
そこでギャングに襲われて
ギャングはクレアの新しい夫を
追いかけていることを知り
クレアとともに
かつて姉妹が世話になった家に向かいます。
そこで、エセルの運命が分かるのですが
まあ、あらすじの紹介は
ここまでにしときましょう。
上にも書きましたが
アーチャーが女子大生をナンパする
というところ以外は
いつもの、というか
通常のハードボイルド・ミステリで
クレアとアーチャーの探偵物語は
ちょっと赤川次郎の作品を
連想させるようなところもあります。
そういうところから
ジュブナイル用のリライト作品として
選ばれたものと思われます。
(といっても、当時まだ赤川次郎は
デビューしてませんでしたが)
原作を読んでみると
どこにも5万ドルの話は出てこないというか
誰が「悪魔」に相当するのかも分からないし
もしある人物が「悪魔」だとしても
そいつが「くれた」のは
どう考えても2万5千ドルなので
計算が合わない。
リライト版がなんで
「悪魔がくれた5万ドル」という
タイトルになるのか
原作を読んだだけでは
よく分かりません。
これもやっぱり
盛光社ないし盛光社鶴書房の本を
確認しないといけませんね。
でも、読んだ内容と
章タイトルを照らし合わせても
原作が「姉はなぜ消えた?」
あるいは「自殺した女」であることは
間違いないと思われます。
例によって関心のない方には
どうでもいいようなことを
長々と書いてしまいました。
個人的には
ささやかながら
達成感があるのですけど……
長文深謝。
