『シェーン真相を追う』
(1952/森郁夫訳、ハヤカワ・ミステリ、1963.2.15)

今ではすっかり
忘れ去られた感がありますけど
その昔、マイケル・シェーンという
アメリカはマイアミで事務所を構える
赤毛の私立探偵がいて
テレビ・ドラマのシリーズにもなりました。

アメリカで製作されたテレビ・シリーズは
『探偵マイケル』(1960~61)という邦題で
1961年にフジテレビで放送されています。

長編の翻訳が
主としてハヤカワ・ミステリから
1960年代前半に集中的に訳されたのは
おそらくそのためでしょう。


自分は、テレビ・ドラマの方は
あいにくと観た記憶はありませんが
(生まれる前だし【苦笑】)
小説の方は
子ども向きにリライトされた翻訳で
読んでいます。

大人向けの翻訳はその後
古本で全部揃えましたが(たぶん)
読んだのはそのうちのひとつだけで
今回、読むものが
2冊目ということになります。f^_^;

なぜ読んだかといえば
これが昔ジュニア版で読んだ作品の
おそらく原作だと分かったからでして。


その夜、競馬から帰ったシェーンは
自宅(といっても居住用のホテル)で
奇妙な電話を受けます。

まずは、明日、受けとるはずの手紙を
読まずに破棄しろ
さもないと痛い目を見ることになる
という脅迫の電話。

続いて、謎の女性からの
夜中に訪ねるという
事件の依頼らしき電話。

さらに、先の脅迫者が
手紙の差出人として名をあげた女性
ワンダ・ウェザビイからの
救援を求める電話。

最後に、知人の新聞記者からの
困っている友人の相談にのってくれ
という電話がかかってくる。

ワンダの電話が気になって
その自宅に向かったシェーンは
そこでワンダの死体を発見します。


死体を発見してから、一晩のうちに
ワンダの命を狙う動機があると思しい人物が
次から次へとシェーンに接触してくる
そのために忙しく
目まぐるしい夜を過ごすことになる
という展開はスピーディーで
なかなか楽しいものでした。

ポケミスの裏表紙に書かれている内容紹介には
「ラジオ・テレビ界の内幕をあばく
 マイケル・シェーン・シリーズの異色作!」
と謳われていますけど
別に業界内幕ものというわけでもなく
ラジオ・テレビ業界の人間が事件に絡んでいる
という程度でしかありません。

ただ、シェーンがある程度
顔も名前が知られていて
シェーンが関わった事件をドラマ仕立てにして
シェーン自身に語らせるという
ラジオ番組の企画の話が出てくるのが
ちょっと面白かったです。

こんなに名前が知られていて有名な
いわば街の、というより町の、私立探偵
という感じの設定だとは
思いもよりませんでした。


原題は What Really Happened で
これはおそらく最後の方に出てくる
ラジオ番組のタイトル
(以下の引用の1行目が
 番組タイトルの名乗りだと思うわけです)
ないし、ナレーションを
踏まえたものではないかと思います。

「真相は……なにか……?
 みなさまは何度、日刊新聞に出た
 ドラマティックな事件の
 ニューズ解説を読んだあと、
 この質問を、
 胸に抱いたでしょうか?
 みなさまは何度、
 新聞をわきに置いて、
 『ここまでは非常によくわかるが——
 真相は【左の3文字に傍点】なにか、
 そいつが依然として判らないな』
 とつぶやいたことでしょうか?」(p.180)

原題は、この部分を
踏まえていると思われますが
それを『シェーン真相を追う』という
邦題にしたのは
上手いような上手くないような
まあ、苦心が偲ばれますね(笑)


で、本作品のジュブナイル訳ですが
おそらく、盛光社ないし
盛光社鶴書房から出ていた
ジュニア・ミステリ・ブックスないし
ミステリ・ベストセラーズの1冊である
『真相を追え』というのが
本作品のリライトだと思われます。

国会図書館の蔵書検索で調べると
『真相を追え』がデジタル化されてまして
自宅では本文を見ることはできませんが
目次を確認することができます。

それで確認してみると
以下のような章立てになってました。

・なぞの電話は四度なる
・血の池
・暗黒街の顔役
・千ドルか、五千ドルか
・アリバイ
・うらのうら
・マーチン夫人
・第二のぎせい
・にせの手紙
・待ちぶせ
・女手品師
・テレビ・ドラマ
・デマのもとは?
・ついに!
・じゅんび完了
・うそだ!でたらめだ!
・真相はこうだ

電話が4回かかるというのは
上のあらすじで書いた通りですし
マーチン夫人というのは
ポケミス版の方に出てくる
シーラ・マーティンのことでしょう。

ただ、女手品師というのは
ポケミス版には出てきません。

これはおそらくリライトする際
子ども向きにはふさわしくない
と判断された
登場人物のうちの誰かだと思いますが
こればっかりは
ジュブナイル版にあたってみないと
分かりません。


『シェーン真相を追う』を
『真相を追え』に変えただけで
分かってみれば、なるほどと
見当はつくものの
どちらにせよ、どんな内容でも
当てはまりそうなタイトルなので
原作を確定するのが難しかったわけです。

自分はこの『真相を追え』を
昔、読んだような気もしますが
内容は全然忘れてます。

機会があったら、確認しとかないとね。


ちなみに盛光社ないし盛光社鶴書房の
『真相を追え』には
併載作品として
ロス・マクドナルドの
「悪魔のくれた5万ドル」
というのが入っています。

これまた、これまで原作を
確定できていなかったのですが
やっぱり章タイトルから
おそらくこれだろうというのを
絞り込むことができました。

それが何かについては
また次回にでも。


ペタしてね



●訂正(12月22日、19:10ごろの)

盛光社のシリーズ名が
「ジュニア・ミステリ・シリーズ」
となってたのを
「ジュニア・ミステリ・ブックス」
に直しておきました。