『ローマで消えた女たち』
(2011/清水由貴子訳、
 ハヤカワ・ミステリ、2014.6.15)

イタリア版『羊たちの沈黙』
という惹句とともに紹介された
『六人目の少女』(2009)の作者による
第2作です。

前作がそこそこ面白かったので
今回の作品もそこそこ期待したのですが
そこそこ、どころか
期待以上の面白さでした。


以下、本書のあらすじと感想を
簡単かつ曖昧に述べますが
まっさらな状態で読みたい方は
眼を通しませんように。

また、もしこれから
本書を読もうという人がいたら
カバー裏の内容紹介と
本文前に掲げられている
「おもな登場人物」表
そして作者と訳者のあとがきは
読まれないよう、お勧めします。

(ほんとはオビの惹句も
 見ない方がいいのですが……)




心臓発作を起こした男性から
救急通報を受けて
到着した女性医師は
患者のそばで
数年前に誘拐され殺された
双子の妹が身につけていた
スケート靴を見つける。

今、死にそうになっている男こそ
若い女性ばかりを狙う
連続誘拐殺人魔だった。

犯人が最後に拉致した女子大生は
いまだに見つかっておらず
その行方を突き止めるために
ある秘密組織員が動き出す。

一方、報道カメラマンの夫の死が
単なる事故ではないと疑っていた
女性科学捜査官が
夫が残した手がかりを追い始める。

このふたつのストーリーと並行して
1年前に、ある特異な体質を持つ
連続殺人鬼を追う「ハンター」の物語が
語られていきます。

最初のふたつの物語が重なるとき
連続誘拐殺人の意外な真相が明らかとなり
もうひとつのストーリーが重なることで
とんでもない背景が明らかとなる……


上のあらすじでは
「ある秘密組織」とか
「ある特異な体質」というふうに
曖昧に書きました。

どういう組織なのかが分かってくるのが
前半から中盤までの面白さのひとつですし
「ある特異な体質」にしても
明らかにプチ・サプライズを
狙っているように思われるのですが
ただ、その組織の性格や
ある殺人者の特異体質についてふれると
逆に本書を読んでみようと
思うかも知れないなあとも感じてしまう。

それくらい魅力的だし
それくらい、ぶっ飛んでいます。

両方とも、現実に存在する組織と
現実に存在する疾患に基づいていますが
共に面白すぎるからです。
(特異体質を面白すぎるというのは
 不謹慎かもしれませんが)


また、作者は
テレビドラマの脚本を
手がけたこともあるそうですが
その手筋がよく出ているというか
半クールぐらいの
サイコ・サスペンス・ドラマのような
印象も受けました。

一話完結のエピソードを積み重ねて
最後に大きな絵を描いてみせる
というような構成が
ドラマみたいだという印象を
助長しているのかもしれません。

テレビ・ドラマはほとんど観ないので
具体的なドラマ名を
例としてあげることはできませんが
その手の連続ドラマが好きな人には
おすすめかもしれません。


小ネタの使い方も上手くて
女子大生が密室から消えたというネタは
肩すかしでしたけど
最初に問題になる過去の事件の
現場に残された秘境的な記号の扱いには
思わず膝を打たされました。

傑出したオリジナルなアイデアはなくとも
小ネタを重ねて興味を持続させるあたりは
こういっては何ですが
テレビ・ドラマの常套手段
だという気がしますし。


それだけでなく
さすがにカトリックの国だけあって
というか
善と悪に対する霊的な闘争
ないしは
宗教的あるいは哲学的
ともいえそうな命題が絡んできます。

原題は「魂の裁判所」というそうですが
できればそのニュアンスを活かした邦題に
してほしかったですね。


イタリアの犯罪小説は
黄色い表紙であることから
ジャーロ(ジャッロ)といわれ
映画などでも
それがひとつのジャンル名となっています。

日本でも人気がある
『サスペリア』(1977)の
ダリオ・アルジェントが
まさに『ジャーロ』(2009)という映画を
撮っています(未見)。

数少ない視聴体験を踏まえていうなら
そういうジャーロ映画を思わせる
というか
ジャーロ映画ってこういう感じかな
というふうに感じさせる要素が
満載の作品だともいえるでしょう。

さすがイタリア人作家
という感じ。


ちょっと前に池袋のジュンク堂で
知り合いの編輯者に会った時
この小説の話になり
日本の新本格みたいな作家でしょう
と言われたのですが
まさにその通り(苦笑)

島田荘司や綾辻行人が
書くような小説が好きな人には
超おすすめだったりします。


2段組みで500ページを超す大冊ですが
読みごたえは充分。

『六人目の少女』よりも
こちらの方が出来がいいと思います。

書こうと思えば
続編が書けそうな設定なんですが
どうでしょう。

次回作がちょっと楽しみです。


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