『コンプリケーション』
(2012/清水由貴子訳、
 ハヤカワ・ミステリ、2014.3.15)

アメリカ探偵作家クラブ賞
ペイパーバック部門の候補作だそうですが
ハヤカワ・ミステリには珍しい
幻想性の高いミステリでした。

でも、作者がアメリカ人だからなのか
この手の(この手の? w)
幻想ミステリにしては
比較的、読みやすかったです。

訳者あとがきで、原作者は
「村上春樹の小説の主人公たちに
自身を重ね見る」と紹介されています。

「自身を重ね見る」というのは
どういうことなのか分かりませんが
村上春樹の小説が好きなんでしょうね。
そういう雰囲気も
感じさせる作品になっています。

とはいえ、
自分が読んでいる村上春樹作品は
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
あたりで止まっているから
アテにはなりませんけどね。


主人公の「ぼく」こと
リー・ホロウェイは
芝刈り中に急逝した父親の遺品から
プラハからの手紙を発見します。

数年前、プラハで客死した弟の死因は
伝えられる通り
洪水に巻き込まれて溺死したのではなく
プラハに来てくれれば
その真相を伝える用意があるという
未知の女性からのものでした。

父親は生前
すでに飛行機の切符を買い
ホテルの予約をしていたことを知って
「ぼく」はプラハに向かうことにする。

そこで「ぼく」は
ルドルフ・コンプリケーションという
伝説的な時計をめぐっての
奇妙な事件に巻き込まれていく
というお話です。


ルドルフ・コンプリケーションというのは
神聖ローマ帝国皇帝
ルドルフ2世のために作られた
コーヒーのソーサー程度の大きさの時計で
不老不死をもたらすという伝説があった
と作中で紹介されています(pp.49-51)。

そういう時計をめぐっての
エピソードを語る章が
「ぼく」が経験する事件と並行して
別に章立てられて挿入されていきます。

そしてさらに、プラハでは
1988年ごろから
死体の右手を切り取る
連続殺人鬼が跳梁しており
その事件も並行して描かれていきます。


そうしたエピソードが
最後にはすべてひとつにまとまるのですが
不老不死の時計が絡んでくるだけに
すべてにリアルで合理的な説明がつく
というわけではありません。

ただ、第3部で
「ぼく」の経験した出来事の謎が
ほぐれていくあたりの雰囲気は
本格ミステリっぽい味わいがありました。

最後に、えーっ! となるような
どんでん返しも用意されています。

変な話ですが
複雑なようでいて晦渋ではなく
読みやすいこともあり
ちょっとした奇談を読み終えたような
爽快感というか
気持ちよさがありました。


要所要所で登場する
赤い服を着た歯のない少女が
時空を超えて跳梁している
かのように感じられて
印象的です。

仏・伊共同製作のオムニバス映画
『世にも怪奇な物語』(1967)の
第3話「悪魔の首飾り」
(担当監督はフェデリコ・フェリーニ)
に出てくる
白い鞠の少女を連想させます。


赤い服の少女が「ぼく」に渡す
『プラハ自由自在』という
ガイドブックの記述が
これまた奇妙で楽しく
都市小説のようなノリを
醸し出すことに貢献しています。

第3部になると
パリンドローム(回文)という
言葉遊びが執拗に出てきて
不思議感が高まっていき
わくわくしながら読み進めました。


不条理小説っぽい話が好きな方には
おススメですが
文章が晦渋ではないので
物足りなさを感じるやもしれません。

あと、謎解きミステリが好きな方が読んでも
楽しめるのではないかと思います。


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