『血の裁き』
(2011/北田絵里子訳、講談社文庫、2014.6.13)

アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)
最優秀ペイパーバック賞を受賞した
『隠し絵の囚人』(2010)に続く作品です。

先に紹介した
『その女アレックス』の前に
読み終わっていたのですが
まあ、これもタイミングということで
以下、感想なぞ。


13年前に
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争時に
民兵を率いて虐殺の限りを尽くした
組織のリーダーへの
肝臓移植手術を成功させた主人公が
その娘の脅迫まがいの依頼で
リーダーの隠し財産を管理する
元組織の会計士と
コンタクトしなければならない
はめになります。

そのリーダーが率いる民兵組織は
コソヴォ紛争でも虐殺の限りを尽くし
現在(2008年)
組織のリーダーは
オランダのハーグにある
旧ユーゴスラヴィア国際刑事裁判所で
戦争犯罪人として
裁かれている最中でした。

リーダーの娘も
拘束こそされていませんが
監視されていて
自由に動けないので
偶然(?)会った主人公に
白羽の矢があたったわけです。


地位も名誉もある外科医が
保身のために
イギリスからオランダ、スイスへ、
そしてバルカン半島へと
引きずり回されます。

やっと目的を達したかと思えば
約束を反古にされたり裏切られたりして
なかなか決着がつかずに
えんえんと引きずり回されることで
結末が引き延ばされる
という話の作りなので
読んでいる内に、またかよ、と
鼻についてくるところもあります。

あるネタで脅迫されていた主人公が
途中から正義と自意識に目ざめて
だんだん信念を回復していくあたりから
面白くなっていきました。


かつてなされた不正義は
当時、それが
不正義だとは知らなかったとしても
なされた当人が引き受けなければならない
あるいは清算されねばならない
という思想(テーマ)が
垣間見られないこともありません。

かつてなされた不正義は
ないことにして顧みないという心性が
骨がらみとなっている
かのように思われる
最近の政治家の言動を側聞するにつけても
なかなか硬骨な物語だと
思われてきます。


そう読むと
いささか教訓臭くなりますが(苦笑)
読みどころはやっぱり
曲折を重ねるストーリーと
主人公が信念を回復していくところ
でしょう。

上に書いた通り
展開が鼻につく感じもあり
ゴダードとしては普通の出来
というか、まあ
いつものゴダード節という感じで
安心して読めます。


原題は Blood Count で
直訳すれば「血をカウントする」
ということになりますが
ニュアンスを汲み取れば
「どれだけ血が流れたことか」
あるいは
「犠牲者の数を数える」
ということでしょうか。

ボスニア・ヘルツェゴビナとコソヴォ、
両紛争の犠牲者も含めての
カウントだと思います。

下巻のオビの惹句から取って
「死の累積」ないし「血の累積」
という邦題にすると
原題のニュアンスに近いと思いますが
ちょっと固くなるかもしれませんね。


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