『その女アレックス』
(2011/橘明美訳、文春文庫、2014.9.10)

出たばっかの本を
出た月に読み終えるのは
自分的には珍しいです。

オビの惹句と
英国推理作家協会賞(CWA賞)
インターナショナル・ダガー受賞
という実績に、釣られました。


インターナショナル・ダガーという
部門名からもお分かりの通り
作者はフランス人で
本書はフランス・ミステリです。

フランス・ミステリは
プロットの仕掛けを施した
技巧的なミステリが多いので
そこそこ期待できるわけです。

おおいに期待できる
とまでは、いえなくて
たまにコケることもあるのですが
本書に関しては
コケることない秀作でした。


以下、極力、曖昧に書いてますが
まっさらな状態で読んだ方が
より良い作品ですので
未読の方はその点ご了承の上で
以下の記事をお読みくださいまし。




お話はアレックスという女性が
何者かに拉致監禁される場面から
始まります。

以前、こちらのブログで紹介した
『密室の王』みたいな話かなあ
と思いながら読み進むと
お話が進むにつれて
プロットは二転、三転します。

プロットというより
物語パターンといえばいいでしょうか。

第一部の最後で
ああ、これはあのパターンね、と思うと
次の第二部で
裏切られるという構成なのです。

さすがに第三部に入って
しばらくすると
作者の狙いが分かってきますが
分かったら分かったで
奇妙な感覚にとらわれるような
話になってます。

すべては、物語の最後の
予審判事の台詞に
集約されていると思いますが
それに対して
素直にうなずけないような
ブラックな味わいが残るわけです。


これは読みようによっては
いわゆるイヤミスということに
なるかと思いますが
何をもって「イヤ」とするか
迷うようなところがあり
そういうところに
小説としての力を感じさせます。

何ミスだとか、かにミスだとか
単純に整理分類されないのが
優れた小説であることの
ひとつの証しだと思うので。


監禁されている廃墟で
被害者が遭遇する出来事や、
連続殺人の手口、
そしてある登場人物の
身体的特徴などは
いかにもグラン・ギニョレスクな感じで
そこらへんも
フランス・ミステリらしいと
いえるかもしれません。

一言でいえば、エグい(苦笑)


その一方で
捜査側のキャラクターの設定は
徹底的にデフォルメされていて
そこらへんは
刑事ものの面白さもありますが
むしろユーモア・ミステリのように
感じられるかもしれませんね。

日本の警察では
(アメリカの警察でも)
あり得ないような設定ですけど。


ただひとつ気になったというか
作者が意図的なのかどうか
分からないのは
アレックスが捨てた
プライベートな小物や日記が
アレックス的には
発見されないようにと思ってたように
読めるのですけど
物語展開的には
それが発見されないと
第三部の展開が
かなり変わってきたのではないか
と思われる点です。

これは、作者側からしたら
「神の挽き臼」的な
発想なのですかね。


一言でまとめちゃうのも
あれですし
カンのいい人には
分かっちゃうかも知れませんが
コーネル・ウールリッチの現代的変奏
という感じの作品でもありました。

ちょっとクセがありますけど
これは、おススメです。


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