
(光文社、2014年3月20日発行)
お気に入りの作家ですが
いつでも買えるだろうと思っていたら
新刊書店の店頭で
平積みを見かけなくなったので
この8月、夏期講習で藤沢に行った時に
その藤沢のジュンク堂で買いました。
で、ようやく読み終わった次第で。
お気に入りの作家なのに. . . (-。-;)
短編集で全5編収録。
表題作は、オビにも書いてあるように
日本推理作家協会賞を
短編部門で授賞しました。
「越流」って言葉、知りませんでした。
辞書で調べて、なるほど、てな感じで。
その表題作「暗い越流」と
「幸せの家」の2編は
ともにフリーライターの
南治彦という男が登場するので
シリーズといえばシリーズですが
南治彦が謎解き役で主人公
というわけでもなく
事件が解決してもモヤモヤが残る
微妙なセンを狙っていて
若竹七海のクセ者ぶりが
よく出ている短編だと思います。
冒頭の「蠅男」と
巻末の「道楽者の金庫」は
共に、女性探偵・葉村晶もの。
「蠅男」は
今風の本格ミステリの
お手本のような作品で
「道楽者の金庫」は
昭和30年代・日本本格の
オマージュというよりも
パロディのような作品でした。
「蠅男」は
米澤穂信の「関守」を
連想させるところもある
オカルト伝説ネタの作品です。
狙いは微妙に違いますけどね。
「道楽者の金庫」は
こけしミステリであり
ビブリオ・ミステリであり
昭和30年代の
日本の本格ミステリの世界を
多少なりとも知っている人には
ウケそうな話です。
金庫を開ける暗証番号の暗号は
昭和30年代の日本の本格ミステリには
ありそうな感じのアイデアでして
分かる人にはすぐ見当がつくでしょうが
そこは作者も分かってて
やってるんじゃないのかなあ。
残りの一編「狂酔」も
読み進めるうちに
ミステリを読みなれた人なら
ああ、あのネタかと
見当がつくかと思います。
あのネタと、もうひとつ
あのパターンとを組み合わせたのが
ミソといえばミソでしょうか。
あのネタは、
気づかれるのはもう前提で
気づかれた上で
どう料理するかが腕の見せ所
というネタのような感じがしますし
作者も明らかに
そのつもりで書いていると思います。
その意味では、
料理の仕方は上手いのですが
いろんなパーツが
そのネタのために用意された
ということが
見え透いてしまうのが気になりました。
上手いなあ、よくできてるなあ
とは思うのですが
よくできてるなあ止まりというか。
こういう感じは
都筑道夫のある種の短編を読んだ時に
受ける感想と似ていますので
その意味では悪口ではなく
ある意味、勲章なわけですが
でも、ちょっと残念。
様々な要素や細部は
オチのためということが
見え透いていると思わせないような
ある種の過剰性が欲しい気もしますし
そういう過剰性を盛り込めなくもない
題材だったような気がします。
や、まあ、でも、難しいですけどね。
過剰性を盛り込もうとすると
アイデア・ストーリーとしては
破綻してしまいそうだし。
「狂酔」のような作品を読むと
小説を書くというのは
大変なことだと思います。
若竹さん、本書のあとがきで
自ら「怠け者」だと書いてますが、
もう少し働き者になって欲しいと
ファンとしては、強く思う次第です。
もっとも今年は
すでにもう一冊、
短編集が出てますけどね。
そちらについては
また機会がありましたら。
