こちらは7月6日の記事の続きです。
そのつもりでお読みください。




前回、ミスディレクションが
ミステリファンに知られるようになったのは
松田道弘の
『とりっくものがたり』(1979)
あたりからだろうと書きましたが
都筑道夫の
『黄色い部屋はいかに改装されたか?』(1975)
に、すでに
ミスディレクションという用語自体は
紹介されていたことを
アップしたあとに思い出しました。

ただ、ミスディレクションの原理を
たいへん分かり易く説明しているのは
松田道弘の本の方だと思います。


ミスディレクションといえば
たとえば昔だと
アメリカのマジシャンで
ミステリ作家でもある
クレイトン・ロースンが著した
『帽子から飛び出した死』(1938)
という長編ミステリに出てくる
以下の図形を使って
よく説明されたものです。

東京創元社版『帽子から飛び出した死』挿入図

『帽子から飛び出した死』は
1976年に
ハヤカワ・ミステリ文庫版が出たとき
買ったのを持っているんですが
あいにく実家の本棚にあるのでして
上の写真は
手許にあった
東京創元社版のものです。

東京創元社版『帽子から飛び出した死』
(西田政治訳、東京創元社・
 世界推理小説全集46、1957.3.15)

もともとハコに入った本ですが
手持ちの本にはハコがありません。

ただ、写真にもある通り
月報がついていたので
店頭ワゴン・レベルの
捨て値だったこともあり
購っておいたものです。

訳は、比べたことはありませんが
ハヤカワ・ミステリ文庫版の
中村能三訳方が、いいと思います。


この図形は江戸川乱歩の短編
「凶器」(1954)にも
そのまま引用されていますので
ご存知の方もいるかも知れません。

江戸川乱歩「凶器」挿入図

上の写真は、光文社文庫版の
『江戸川乱歩全集』第17巻(2005)に
載っているものです。

この乱歩の方の図形を使って説明すると
作中の名探偵が次のような問題を出します。


O(ロースんだとX)が円の中心で
OA上の点Bから垂線を下ろして
円周と交わった点がC。
さらにOから垂線を下ろして
OBCDという直角四辺形を作ります。
さて、ABは3cm(ロースんだと3インチ)で
BCは7cm(ロースんだと9インチ半)のとき
この円の直径は何センチでしょうか。
30秒で答を出してください。


ロースンの方は30秒ではなく
1分もあれば充分となってます。

乱歩の方が時間を短くして
焦らせるようになってるわけで(苦笑)


このロースンの図形は
ミスディレクションの原理を
よく示してはいるのでしょうけど
「言葉による騙し」の例としては
分かりにくいかもしれません。

都筑道夫や松田道弘は
こうした図形をあげずに
ミスディレクションを説明しています。

次回は、そちらについて
紹介していくことにしましょう。

直径が何センチかという答も
次回に持ち越すことにします。


というわけで、
しつこく引っぱって恐縮ですが f^_^
To be continued. です。


ペタしてね



●訂正(23:10ごろの)

東京創元社版の
『帽子から飛び出した死』の
刊行年が間違ってましたので
訂正しておきました。

1957年=昭和32年に出た本です。