
(音楽センター CCD-894、2011.8.1)
発売日は Amazon のデータに拠ります。
ヴァイオリンが松野迅。
ピアノは曽我尚江。
吉田隆子の曲を収めたCDはないかと
Amazon で検索したら
引っ掛かってきたCDです。
吉田隆子は
先にこちらでもご案内の
『日本女性作曲家の歩み』に
「お百度詣」が収められており
そのライナーで
与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」に
曲を付けたと知って
聴いてみたいと思っていたのでした。
ちなみに「お百度詣」は
大塚楠緒子の詩に曲を付けたものです。
『オリエンタル』自体は
アジアにゆかりのある曲や
日本人作曲家の曲を収めたCDです。
表題は
ロシア五人組
(というのがクラシック史上
いるのですよ)の一人
セザール・キュイの小品から
とられています。
これ、なかなかオリエンタル
というか、東洋というより
イスラムっぽい旋律で
(オリエントといわれる「東洋」は
ヨーロッパの東を指すので
間違いではないんですけど
ヨーロッパからすれば
ロシアも東方なんだけどなあw)
ハリウッド映画か何かに
使われてそうな感じです。
そのキュイの小品を冒頭において
滝廉太郎「荒城の月」の
松野編曲による変奏曲とか
多 忠亮(おおの ただすけ)が
竹久夢二の詩に曲を付けた
「宵待草」の演奏
(もちろん歌抜きの演奏)などが
収められています。
肝腎の吉田隆子作品は
もともとは歌唱曲なのを
ヴァイオリンとピアノのために
吉田自身によって編曲された
「君死にたまふことなかれ」と、
これはもとから
ヴァイオリンとピアノのための
「ソナタ ニ調」の演奏が
収録されています。
その「ソナタ ニ調」は
久保栄の戯曲「火山灰地」の劇伴曲を
ソナタに書き改めたものだと
ライナーに書いてあって
ちょっとびっくり。
いちおう大学は文学部出身なので
久保栄も「火山灰地」も
何となく聞き覚えはありましたが
それでも、まさかこんなかたちで
名前を目にしようとは
思いもよりませんでした。
俄然、「火山灰地」を
読みたくなってきましたが
うちにはないだろうなあ
と思いつつ探してみたら
角川文庫版が出てきました。

(1938/角川文庫、1958.5.10)
何で買ってるんだろう(苦笑)
それはともかく、Wikipedia で
吉田や久保の項目を見ていたら
吉田隆子が
映画評論家で詩人の
飯島正の妹だと分かりました。
いや、飯島にしたって
自分は名前しか知りませんが
この方、グレアム・グリーンや
ジェイムズ・M・ケインを
訳したりもしていますから
ミステリとも
全く無関係ではないわけで。
まあ、戦前からの映画人は
ミステリとの縁は
割と深かったりするのですけどね。
こんなふうな
人間関係のつながりの面白さ、
山田風太郎の
明治ものの小説みたいですね。
いやまあ、それもともかく
吉田隆子ですが
「君死にたまふことなかれ」は
歌曲をそのまま
ヴァイオリンとピアノのために
変えただけという感じがします。
旋律自体は綺麗なんだけど
歌曲版のコーラスを
繰り返しているだけなので
歌詞の変化がない分、物足りない感じ。
下手な歌い手で聴くよりは
よっぽど良さそうですが(笑)
それに対して「ソナタ ニ調」は
力強く、印象的な楽曲でした。
「ニ調」とあるだけで
ニ長調でもニ短調でもないのは
長調や短調ではなく
エオリア旋法という
グレゴリオ聖歌時代の教会旋法で
書かれているからだそうです。
といってもエオリア旋法というのは
ジャズでよく利用されているようですから
教会旋法で書かれているとはいえ
印象としては現代音楽風なので
万人の耳に心地好い曲とは
いえないと思いますけど
本CDの中では最も力強く
印象的な楽曲でした。
ときにマイケル・ナイマンを
思わせるようなところもあります。
これなんか聴くと
吉田隆子作品集というような
CDまるまる1枚の企画があっても
いいような気がしました。
NHKで特集番組が
組まれたこともあったようですが
そこではどんな楽曲が
演奏されたんでしょうね。
