『狙った獣』創元推理文庫版
(1955/雨沢泰訳、創元推理文庫、1994.12.22)

ちょっと必要を感じて
手にとりました。

奥付の発行年月日を
打っていて気づきましたが
ほぼ20年前に出た本になるんですねえ。

でも読むのは今回が初めて(苦笑)


本作品は最初、
ハヤカワ・ミステリの一冊として
1956年に刊行され
その後、同じ訳者のものが
1977年になって
ハヤカワ・ミステリ文庫に入り
さらに創元推理文庫で新訳された
という履歴を持ちます。

創元推理文庫版の
訳者あとがきを読んで
初めて知りましたが
ハヤカワ・ミステリ版は
初版をテキストにしており
創元推理文庫版は
ペンギン・ブックス版を
テキストにしているそうで
ところどころ
文章が直されているようです。

幸いハヤカワ・ミステリ文庫版も
持っているので
読み比べるのも一興かもしれない、
時間があればですけど( ̄▽ ̄)


マーガレット・ミラーは
私立探偵リュウ・アーチャーもので知られる
ロス・マクドナルドの奥さんです。

旦那さんが
ハードボイルド作家であるのに対し
奥さんの方は心理スリラーないし
心理サスペンスもので名を成していて
本書『狙った獣』で
アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞)を
受賞しました。

それぐらい有名な作品でありながら
読むのが初めてというのは
不徳の致すところですが
どんな本にも読み時・読みごろ
というものがあるものだと
つくづく思った次第です。

というのも
今では当たり前となったネタを
使っているということもあり
途中でそのネタに
気づいちゃったからです。

この流れで
ドンデン返しが来るとしたら
これしかないか
と考えちゃったわけです。

いわゆる読者のアンフェアですね(^^ゞ


あと、会話のシーンで
ストーリーが進む箇所が多く
紙面が白い感じがしたのは
ちょっと意外でした。

だからさくさく話が進むというか
まるで40~50年代の
モノクロの犯罪映画
(いわゆるノワール映画)を
観ているかのようでした。


途中でオチに気づいたとはいえ
面白くなかったわけではなくて
本書に描かれる「頭がおかしい」女
エヴリン・メリックのやってる迷惑行為は
夢野久作『少女地獄』中の一編
「何んでも無い」に出てくる
看護婦がやっていることを
彷彿させるものがあって
興味深かったです。

そして上に書いた迷惑行為が
これまた実に迷惑な行為でして
悪意が服を着て歩いているような感じが
よく出ている気がすると同時に
ちょっと怖かったです。


『狙った獣』ハヤカワ・ミステリ文庫版
(1955/文村潤訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1977.3.15)

今では、上に掲げた
ハヤカワ・ミステリ文庫版はもちろん
創元推理文庫版も
品切れかとは思いますが
興味のある方は
探してみてもいいかもしれません。

ただし、自分的には
本書がミラーの最高傑作だとは
思いません。

むしろ次に書かれた
『殺す風』(1957)の方が
より自然な感じの秀作だと思います。

それについてはまた次の機会に。


なお、創元版の『狙った獣』には
訳者あとがきの他に
宮脇孝雄による解説がついていて
これが実に有益で
勉強になりました。

これが読めただけでも
今回、目を通した価値があった
と思うくらいです。

さすが『書斎の旅人』、
敬服いたしました。


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