『天国ゆきカレンダー』
(ハヤカワ文庫JA、2014年1月15日発行)

タイトルが印象的な作品ですし
「天国に行かされる少女と
 神様を探す少年。
 ふたりが過ごした、
 夏休みの行方。」
というオビのコピーも秀逸です。

でも実際は
コピーから受ける
さわやかな印象とは異なり
タイトルになっているカレンダーは
かなりヤバいアイテムなのです。

以下、それにふれますので
まっさらな状態で読みたい人は
ご注意ください。




天国ゆきカレンダーというのは
女学校に通う主人公が
クラスのいじめっ子たちから
夏休み前の終業式の日に渡された、
毎日、カレンダーに書かれたことを
(夏休みの課題のように)実践し
8月31日には自殺せよ
そうすれば天国に行ける
と言われて渡された
いじめアイテムの名称です。

それを渡された日
ぷっつんと何かが切れた主人公は
その通りに実践して死んでやる
その実践の経緯を夏休み日記にして
天国ゆきカレンダーと一緒に
マスコミに送ってやる
という「復讐」計画を立てます。


主人公はまた
男性アイドル・ユニット
(主人公は
ロック・バンドと認識してますが)
「シェーン」のファンで
出待ち入り待ちをするほどの
「中堅」ファン。

ちなみにインディーズ時代から
追いかけている
古参ファンのグループもいます。

この辺は
ジャニーズ・ファンとかの
実態を踏まえているのかな?

自分もヲタ活動を
やってるようなものなので
親近感が湧く設定でした。(^^ゞ


それはともかく
夏休み中の
北海道から九州までの
全国ツアーに行くことと合わせて
上に書いたような計画を実行してやる
と主人公は考えたわけです。

それに協力することになったのが
というより、させられてしまうのが
幻の(表舞台には出ないことで知られる)
カリスマ女性アーティストを信奉する
有名校の男子生徒。

ひょんなことから
主人公と知り合った彼は
女性アーティストのシークレットライブが
福岡で開かれることもあり
主人公につきあって
全国を縦断することにします。

つまるところ、まあ、
ロードムービーのような設定の
青春ミステリなわけです。


「青春ミステリ」と
カバー裏のあらすじ紹介に
書いてあるので
上でも「青春ミステリ」と書きましたが
最初に事件が起こって
ストーリーの進行とともに謎を解くという
オーソドックなミステリではありません。

途中までは
青春ロードムービーという感じで
主人公が旅の途中で出会う
いろいろな人との交流が中心になります。

それを
ライブツアー完全制覇と
合わせたところが
今風な感じといったところでしょうか。


この作品なんかは、まさに
先に紹介した『日記は囁く』よりも
リアルな感じのする
(少なくとも、いじめの描写は数段リアル)
ヤングアダルト小説という印象でして
それが、いちおう
成人向けのレーベルで出るあたり
日本ならではというか
もはやヤングアダルトと
一般小説の区別がつきがたいというか。

『日記は囁く』との比較でいえば
親などの大人の世界と
青年たちの世界とが
まったく絡まないのが
日本のヤングアダルト系小説の
特長かなあ
とか思ったりもします。

主人公と親とは
絡まないこともないので
正確には
親との距離感がぜんぜん違う
とでもいえば、いいでしょうか。


いじめアイテムとしての
「天国ゆきカレンダー」の最終ページは
主人公が自殺することで
終わるようになっていますが
それでは物語にならないわけで
(というか、別の物語になるわけで)
主人公が自殺しようとする時
ある謎が立ち現われて
推理するという話になっているのは
ちょっと面白かったです。

つまり、それまでのロードムービー部分は
推理のための伏線にもなっているわけですが
それだけに、主人公が出した結論は
やや理に落ちすぎているというか
「俺のために、生きろ」という
主人公と行動を共にした男子の台詞を
主人公が推理したように解釈してしまうと
やや打算的な感じがされて
ボーイ・ミーツ・ガール的な要素とは
相容れないような気がするんですけど
それは読み手である自分の
ロマンティシズムでしょうか。


主人公が「追っかけ」ということで
ちょっとくすぐったい感じもあり
途中は『究極超人あ~る』のDVD
思わせるようなところもあり
そこらへんはラノベっぽいというか
ミステリとしては
ややユルい気がしないでも
ないんだけれども
妙にこちらの琴線に触れる作品に
仕上がっている気がしたことでした。

何よりタイトルがキャッチーですね。


ちなみに本書の発売は
1月10日のようです。

主人公に同行する彼ではないけれど
ちょっとしたコネクションがあって
今回はたまたま
早めに読むことができたことを
付け加えておきます。

もし、上の文章を読んで
読んでみたいと思われた方がいましたら
もう少しお待ちください。


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