
(岩波書店、2013年12月19日発行)
副題は「人魚姫からアリスまで」。
アンデルセンの「人魚姫」の一節から
女性らしく、しおらしいという
従来の人魚姫イメージを覆したり
ゲーテの教養小説として有名な
『ヴィルヘルム・マイスターの
修業時代』に出てくる
少女ミニヨンと比較したりする
第1章が、無類に面白かったです。
それ以降は
ドイツ・ロマン派にふれた
第2章を経て
イギリスの児童文学に移り
ジョージ・マクドナルドを紹介した
第3章に続けて
第4章で
ルイス・キャロルのアリス物語を
マクドナルドと比較しながら
紹介していく本です。
キャロルとも親交のあった
ジョージ・マクドナルドは
いっときハマったことがあり
脇明子が翻訳した
『お姫さまとゴブリンの物語』や
その続編にあたる
『カーディとお姫さまの物語』は
お話の内容は忘れていますが
たいへん面白く読んだ記憶があります。
それもあって第3章は
興味深く読みました。
やや駆け足気味の結論では
それまでの価値観では捉えきれない
新しい何かを見出すために
「女・子ども」の視点を借りて
表現しようとしたのが
アンデルセンでありマクドナルドであり
キャロルであると書かれていますが
その「新しい何か」とは何なのか
という点が曖昧であるため
やや物足りなさを感じさせるのが残念。
それは、本書の
岩波市民セミナーでの話をまとめた
という出自によるものかもしれません。
マクドナルドの表現についても
自分には解釈しきれないところがある
といって憚らないのも物足りない。
ほんとは
著者なりの考えがありそうですが
市民向けのお話ということで
あえて控えたのかもしれず
だとしたら残念なことです。
ただ、人魚姫についての分析は
さすがに、市民セミナーでは
それを話したかった、というだけあって
意外な発見に満ちた内容だと思いました。
アリスについての言及では
キャロルがアリスの両親に
距離を置かれるようになったきっかけとして
後のエドワード七世が皇太子時代に
オックスフォードを訪れたことをあげており
そうした背景を
寡聞にして知らなかったので
勉強になりました。
巻末には
本書でふれた作品の
リストもついているので
ちょっとしたガイドブックとしても
役に立ちます。
サイズは小さいながら
様々な作者によるイラストが
たくさん掲げてあるのもいいですね。
姉が読んでいる本を覗いて
挿絵のない本のどこが面白いのか
と思ったアリスのモノローグを
意識してのことだと思います。
読みやすいのも、いいですね。
市民セミナーでの話を
基にしていることが
いい方に働いた例かと思います。
19世紀イギリス児童文学に
関心のある方には、おススメです。
