久保田彰の著書『チェンバロ』を紹介したとき、
初期のピアノ(クリストーフォリ・ピアノと
ジルバーマン・ピアノ)に関心のある方におすすめ、
と書きましたが、それに絡めて、ちょっと補足。

前回は、後にチェンバロに発展する楽器として
プサルテリウムとダルシマーの2つをあげましたが、
正確にいうなら、弦をはじいて音を出す楽器
(撥弦[はつげん]楽器といいます)
プサルテリウムが、チェンバロの御先祖さまです。

ダルシマーは弦を叩いて音を出すので、
こちらがピアノの原型。
(打弦楽器といいます)

打鍵で弦を叩いて音を出す楽器は
いろいろ考案されたようです。
クラヴィコードという楽器もそのひとつですが、
あいにくとチェンバロほどの音量はありません。
(クラヴィコード演奏のCDもありますが、
 これについてはまた別の機会に)

最初に、チェンバロ並みの音量で成功し、
現代のピアノに通じるアクションを考案したのが、
イタリアの
バルトロメオ・クリストーフォリ(1655-1731)
だとされています。

最初に開発されたときは、
「ピアノとフォルテを出せるグラヴィチェンバロ」
Gravicembalo col piano e forte
と呼ばれていました。

これが後に「ピアノフォルテ」と呼ばれるようになり、
(「フォルテピアノ」という呼ばれ方もありました)
後半の「フォルテ」が省略されて、
現在のように「ピアノ」と
いわれるようになったわけです。

チェンバロは音色は華やかですが、
音の強弱は出せない(と、思われていた)
楽器だったんですね。
だから、ピアノ(弱音)とフォルテ(強音)を
出せる楽器は画期的だったわけです。
(ちなみにクラヴィコードは
 強弱の出し分けができる楽器でした)

クリストーフォリの楽器を原型として、
その後のピアノ製造の発展の中で、
さまざまに改良されていって、
現代のピアノになっていくわけです。
(だいたい18世紀半ばのようです)

1999年はピアノ生誕300年といわれましたが、
これはクリストーフォリが
上のグラヴィチェンバロを完成させたとされる
1709年を起点とした年代です。

ただ、クリストーフォリが製造した
最初の試作品は現存していません。
残っているのはそれ以降、
1920年以降に作られたものだけで、
現在復元され、演奏されているのは、
それらの楽器を基にしたものです。

手許には、クリストフォーリ・ピアノの
レプリカによる演奏のみを収めたCDが、
なぜか3枚あります。

なぜか、といっても、要するに
見かけたら買うようにしてた
だけなんですけどね(藁

その内の1枚が、
久保田彰製作の楽器を渡邊順生が弾いた
『クリストフォリ・ピアノで弾く
 スカルラッティソナタ集』
$圏外の日乘-スカルラッティ・ソナタ集(渡邊順生)
(ALM RECORDS ALCD-1096、2007)です。
(CDの製造・発売はコジマ録音)

ドメニコ・スカルラッティについては
以前、曽根麻矢子の演奏を紹介した時に
ちょっと書きました。
550曲以上あるソナタは
チェンバロかピアノで弾かれることが多いのですが、
クリストーフォリ・ピアノによる演奏で
1枚まるまるスカルラッティというのは、
今のところこのCDだけではないかと思います。

年代的にも考証的にも、
スカルラッティがフォルテピアノに接していたことは
ありえない話ではないそうですが、
そこらへんのことも含めて
ライナーの解説が充実しているので
(執筆は渡邉自身)、
ウンチクが好きな人にはおすすめのCDです。

特に、各楽曲のオクターヴ(音の範囲)から
クリストーフォリ・ピアノで弾くのにふさわしい曲を
詰めていくあたりの論証は、圧巻です。

もちろん、いうまでもなく優れた演奏ですので、
とりあえずクリストーフォリ・ピアノの独特の音色を
良い演奏で知りたーいという人にも。おすすめです。