
(1956/小笠原豊樹訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1977.10.31)
仕事で必要があったので、読み直しました。
これは昔、読んでます。
積ん読だったわけではありません(藁
詩を講ずる学校教師のギブソン氏(55歳)は、
かつての同僚だった男の葬式で会った
同僚の娘ローズマリー(32歳)が、
あまりにやつれているのに同情し、
何くれとなく世話を焼いている内に、
彼女に生気を取り戻させるためには
結婚するしかないと考え、
で、何とホントに結婚してしまうのでした(藁
しばらくは満ち足りた生活でしたが、
ある夜、外食の帰り道に交通事故を起こしてから
ギブソン氏の生活は
微妙な「きしみ」を見せるようになります。
事故の後遺症で片足をひきずるようになり、
駆けつけてきた妹の、何気ない一言が
ギブソン氏の心に傷を負わしていき、
とうとう自分はローズマリーにとっては
将来の負担となる老いぼれに過ぎない
と思うようになり、自殺を決意します。
家主の男が務める会社が管理している毒薬を
オリーブ・オイルの小壜に移し替え、
自宅に帰って静かに死のうとするのですが、
うっかりバスの中に忘れてきてしまう。
帰宅してそのことに気づいたギブソン氏は
どこかの誰かを死なせることになるという恐怖から
すぐに警察に連絡を入れます。
その場にちょうど帰ってきたローズマリーは、
ギブソン氏と共に決然と毒薬探しに乗り出す、
というストーリーです。
前半部分はピグマリオン・テーマが入っていて、
今読むと、男性側のエゴが
目に着かなくもないのですが、
毒薬の小壜を探し回る後半部分は、
ちょうどロシア民話の「おおきなかぶ」のように、
行く先々で事情を知った人々が
次々と協力者として加わっていくという
ほとんどドタバタと紙一重のような
秀逸な展開になっていきます。
その探索行の途中で、
さまざまな仕事につく人々が
さまざまな人生観を語り、
ディスカッションする様は、最高に面白い。
そうしたディスカッションを通して
ギブソン氏やローズマリの心が浄化されていき、
自尊心を取りもどすという流れは、感動的です。
読む人によっては古き良きアメリカ臭が鼻について
ファンタジーにしか感じられないかもしれません(苦笑)
自分的には、前に読んだときも感心しましたが、
今回読み直しても感心しました。
特に自分が年齢的にギブソン氏に近いこともあって、
身につまされたり納得したり、させられたりすることが、
以前よりも強いような気がします。
前にも書きましたが、
アームストロングは本書で
アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞しました。
殺人事件が起こるわけでもなく、
ことさら異常な人物が登場するわけでもない本書は、
これってミステリなの?
と思う人もいるかもしれませんが、
しかり、これもミステリなのです。
ちょっとミステリ・マニア寄りな感想をいえば、
毒薬の小壜を探すあてを絞っていくあたりが、
フィリップ・マクドナルドの
『X氏に対する逮捕状』(1938)とか
『エイドリアン・メッセンジャーのリスト』(1959)のような、
容疑者を絞り込む推理の面白さを連想させました。
まあ、これはいささか、
ためにする感想かもしれませんが(藁
今回読み直して、
やや当方の思い入れが入っているとはいえ、
あまりの傑作だったので
びっくりさせられました。
これは超オススメです。
でも残念、現在品切れです(>_<)
ただし、古本としての値段は
さほど高くはないと思いますので、
幸い見つけられた方は
即ゲットすることをおすすめします。