劇場で購入したパンフレットの
写真をアップするのを忘れていたので、
感想の前に、こちらにあげときます。

$圏外の日乘-ボーイズ・オン・ザ・ラン(パンフ他)

いちばん下のがパンフで、右がチラシ。
左は劇場に置いてあった
新聞紙大のフライヤーです。

以下、ネタバレと感じられる部分が
あるかもしれませんので、ご注意ください。

 ***

この映画、
黒川芽以が出るというので
観に行きました。

実際に観る前から、
黒川さんのインタビューなどで、
植村ちはるは男からすれば悪女だとか、
嫌な女だとか言われてたんで、
どういう女性を演じるのか、という
興味が中心になっていたことは否めません。

でも、実際に観てみると、
実に古風な青春映画でした。
表現自体は時代に合わせてなのか、
ま、原作がそうなのかもしれませんが、
過激なところもあるけれど、
それは表面的なところだけで、
ストーリーないしプロット自体は
王道中の王道という感じです。

劇中では、峯田演じる田西の部屋に
『タクシードライバー』のポスターが
貼ってありましたけど、
好きな女が妊娠させられて
その中絶に付き合うという流れって、
『グローイング・アップ』に
なかったっけ?

『グローイング・アップ』の青年は、
中絶の費用まで負担するのに、
中絶した途端、好きな女は
妊娠させた相手と元の鞘に収まるという
あれも男性目線からしたら、
とんでもない女性ということになるんでしょうね。

そういう女性がとんでもなくない(悪女じゃない)
といいたいのではなく、
男性目線のパターン通りでしょ、
といいたいだけでして。

今回の『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は、
そういう、男性に典型の、
性的幻想とナルシシズムの物語だし、
女性に典型のヒロイズムと現実主義もあるよね~
というだけなんです。

植村ちはるは別に悪女でも何でもなく、
性別役割に関係なく、心が弱い人間だ、
というだけのことでしょ。
少なくとも今回の映画のストーリーと
黒川さんの演じるちはるから受ける印象は、
そういう感じなんだけどね。

物語後半の田西の「〈男〉の闘い」は
明らかに男性原理に基づく自己幻想の暴走ですよ。
ちはるを弄んだひどい奴である青山を
ぼこぼこにする自分に陶酔している。
それをちはるがウザイと思うのは当然で、
田西が懸命になればなるほど、
自分がいかにバカだったかを
見せつけられるわけじゃないですか。

そこで田西側の情報を青山に流すのは
ちはるの青山への未練と、
自分の愚かさを見せつける田西への憎悪、
だと考えると、とっても納得がいく。

納得がいく(理解できる)からといって、
それを認められるかどうかは別なんだけど、
少なくとも一方的に、ちはるは男にとって
悪い女と決めつけるのは、おかしい。
田西だって、ちはるのために、というかたちで、
自分のエゴを満足させているに過ぎない。
女を弄ぶか、女(の名誉?)を守るか、
という表現の違いはあるけれど、
田西もちはるを利用して、自らの欲望を
満たそうとしていたに過ぎない。

純愛だって、相手不在なら暴力でしょう。

だから最後は、ホームでああなるんでしょ。
あの時、ちはるが言ってた
どうすればいいのか分からない、
という台詞が、
男性原理に振り回される女性性のありようを
よく表わしていたと思います。

男性の、やりたいんだけど、
欲望をそのまま出すのはカッコ悪いかも、
という感覚も、よく出ている。

こういうふうに感じるのも、
20代後半なんて、はるか昔になった
ジジイだからかもしれませんけどね(藁

峯田や黒川、松田が演じた若者たちより、
リリー・フランキーの演じた社長や
小林薫の演じた鈴木さん、
YOU が演じたしほの方が、
共感できるし魅力的でした。

まあ、社長や鈴木さんは
オヤジの男性幻想を
体現しているキャラではありますけどね(藁

情けない若者である今の自分は、
将来ああいう気骨のあるダメオヤジになりたい
という願望の受け皿にもなっている。

そして、しほさんのような
母性的存在があればいうことなし、ってね。

なんか、皮肉っぽい感想になりましたが、
性欲を持てあまし、戦いに明け暮れる男性像って
定番なんだからしょうがない。
なんで、男性の関係幻想が
自虐的に描かれると、共感を呼ぶんでしょ。

最初にも書いたように、
黒川芽以が出るので観にいきました。
そして上映前に、様々なメディアで
黒川さんの悪女ぶりが強調されていたので、
主にそこをチェックしつつ観てました。

多くの人が、
黒川芽以はちはるのイメージにぴったり
という感想をもったそうですが、
おそらくそれは、
頭が堅いけど、納得すれば何でもやる、
という、ちはるのキャラが、
黒川さんのキャラと重なって見えたから
ではないかと思います。

劇中では「頭が堅いけど、納得すれば何でもやる」
というのは、性的なキャラ上のこととして
(男目線で半ばバカにされて)捉えられてますが、
あえていえば、男性は頭が堅くて、
納得しても何もしない(自分を変えない)キャラ
ということになるかと思いますね。
自分を省みてもそう思います。

ちなみに田西の「純愛」も、
頭が堅くて納得してもしきれない、
というパターンですよね。

男性はそういうキャラだから、
女性をバカにするし、
女性の「納得すれば何でもやる」を
性的関係のレベルに引き下げてバカにして、
自分のキャラを自己確認するんでしょう。

何だか書いていて、アホらしくなってきたぞ(藁

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』が
男性目線の映画だというのは、
そういうことではないかと思いますね。

で、実は自分は、
そういう男性目線や、
そういう男性目線を持つ自分が、
嫌いだったりします。

だからこの映画、
その意味ではあまり好きになれませんが、
そういう「好きになれない」という感想は、
監督からしてみれば、
してやったり、という笑みを
浮ばせるものかもしれないなあ、
とも思うんですよね。

だってシネセゾン渋谷のロビーに
こんな↓メッセージ残す人だもの。

$圏外の日乘-ボーイズ・オン・ザ・ラン(渋谷2)

ちょっとくやしいぞ(藁

ちなみに、舞台挨拶で黒川さんが、
以前にも男性目線の映画に出たことがある
といっていたのは、たぶん
『グミ・チョコレート・パイン』のことですね。

あれも、へなちょこな男子の性的幻想が描かれる
愛すべき青春映画だったよなあ。

そういう映画に起用されやすい
黒川さんって……ふーむ。

黒川さんのキャラが、というより、
黒川さんにそういうキャラを見出す
男性目線のありようが
たいへん興味深いです。

長々と勝手なことを書きました。
長文深謝m(_ _)m



●訂正(2月2日記す)

上の書き込みで
『アメリカン・グラフィティー』になってたところ、
『グローイング・アップ』に修正しときました。

念のためアップする前に調べて、
『グローイング・アップ』に直しといたんだけど、
「下書き」保存しないで「全員に公開」にしたために
古い文章のままアップされたようです。

困ったものだー。

基本的にタイプミスは直さない方針ですが、
これは事実誤認なので、直しました。
ご了承くださいましm(_ _)m