
(2007/高山祥子訳、ランダムハウス講談社文庫、2009.11.10)
小説家志望の青年アダム・ウッズが
イタリア人子弟の家庭教師を務めながら
傑作を物しようとヴェネツィアにやってきます。
ところがイタリア人の家庭に支障が起きて、
仕事を断たれることになりました。
でも雇い主が親切で、
別の仕事を用意してくれる。
それが、生涯一冊の小説を書いただけで
ヴェネツィアで隠遁生活を送る老イギリス人
ゴードン・クレイスの身の周りの世話でした。
クレイスの世話をするうちに、
アダムは小説ではなく、
クレイスの伝記を書こうと思うようになり、
老作家の過去を探り出そうとする、
というお話です。
オビに「パトリシア・ハイスミスへの
極上のオマージュ!」とありますが、
パトリシア・ハイスミスというのは、
映画『太陽がいっぱい』
(そのリメイク映画『リプリー』)や
『見知らぬ乗客』の原作者である
アメリカの女性ミステリ作家です。
数年前、河出書房新社と扶桑社とで
ほとんどの作品が翻訳されたのですが、
最近はちょっと影が薄い感じ。
映画の原作者、というのが
一般的な認識ではないでしょうか。
『嘘をつく舌』の作者は
そのハイスミスの伝記で
アメリカ探偵作家クラブ賞をとった人だそうです。
そういう情報による思いこみもあってか、
最初は普通の陽気な青年かと思っていたアダムが、
実は反社会的人格障害を持った青年であることが
読むうちにだんだんと分かってくるあたり、
トム・リプリーを連想させました。
クレイスが隠している過去とはどういうものか、
という謎解きも面白かったですけど、
その過程でアダムが示す無茶ぶりが、
やっぱり印象に残ります。
登場人物が少ないので、
まるで舞台劇のような印象を受けます。
にもかかわらず(だからこそ?)
緊張感がじわじわっと高まってくる感じで、
確かに心理サスペンスものの秀作だと思います。
こういう、きちんと書かれた地味な話は
割と好みなんですよね。
長さが400頁ほどでコンパクトなのもいい。
あと、冒頭に掲げられている
エピグラフの意味が
最後まで読むと腑に落ちるようになっているのも
ささやかな仕掛けながら、好みです。
以前紹介した、まんが家の大野潤子は、
「水鏡迷宮のアジさん」で
ヴェネチア好きだと書いてましたけど、
この作品も、読めば気に入るかも。
(もう読んでいるかな? w)
部隊はヴェネツィアだけでなく、
イギリスでアダムが調査する場面も
ありますけどね。
ところで、
クレイスの料理人も務めるアダムですが、
彼が作った料理で気になるものがひとつ。
「たっぷりのバターと砂糖で甘みを加えた
トマト・ソースのスパゲティ」(p.347)
甘いトマトソース・スパゲティ!
トマトの酸味を抑えるために
砂糖を足すことはあるようですが、
上に引いた訳文からは、
オムレツに砂糖を足すのと
同じような感じしません?
食べたいとは思わないっすねえ(藁