
(2007/池田真紀子訳、文藝春秋、2008年10月10日発行)
映画にもなった
『ボーン・コレクター』(1997)の作者による
去年翻訳された新作です。
お気に入り作家の一人なんですが、
去年出たとき、読みはぐりまして、
ようやく今ごろ読み終えましたf(^^;
読み始めれば、1日で読めるんですけどね(遠い目)
『ボーン・コレクター』以降の
ディーヴァーの小説は、
金太郎飴みたいなところもあって、
自分の計画通りに物事が進んでいる
と犯人が思っていたら、
リンカーン・ライムみたいな
スーパー探偵が先読みして、
犯人の計画が失敗する、
という展開の連打で
長編を持たせるようなところがあります。
なぜ分かったのかというのを、
根拠をあげて説明するので、
ほほう、と感心するわけですが。
そのパターンに慣れてしまうと、
思わせぶりな書きっぷりから、どんでん返しまで、
やっぱりね、みたいな印象を持っちゃいますが、
とはいえ、それでもやっぱり面白い。
分かってても面白い。てか、
むしろ、分かってるから面白いのかも。
ある意味、安心して読めますからね。
今回の探偵役は
〈人間嘘発見器〉の異名をとる
キャサリン・ダンス。
尋問中の相手のリアクションから
相手の心理状態を読みとり、
嘘をついていることが分かる、という、
いちおう科学的に裏付けされた
方法論の持ち主です。
やっていることは、
シャーロック・ホームズと同じだと思いますが、
それを、名人芸といって済まさず、
誰にでも使えるような技術、というふうに
方法論化するあたりが、
いかにもアメリカ流。
今回、〈人間嘘発見器〉キャサリン・ダンスは、
カルト集団的なファミリーを率いるような、
支配欲に取り憑かれた男性犯罪者を追いつめるのですが、
面白いのは、
その犯人の、人を支配する方法論と、
ダンスの、人の嘘を読みとる方法論が、
人の心の動きを、読み筋に従って読みとる
という意味では、同じ方法論に従っている、
あるいは、表裏一体をなしている、という点です。
名探偵は名犯人でもありうるというのは、
古典的なミステリでは
よく出てくる認識パターンですが
(「君が犯罪者でなくてよかったよ、
××くん」みたいな感じでw)、
そういう古典的な構図が、
現代に書かれた作品にも表れている、
というのが興味深いですね。
ディーヴァーが
古い革袋に新しい酒を注いでいる作家
であることが、よく分かります。
そして、作中の犯罪者について、
登場人物の一人が、
『オリヴァー・ツイスト』の
オリヴァーみたいだと言う場面がありますが、
それからさらに連想されるのは、
ホームズの強敵モリアーティー教授でして、
ディーヴァーのミステリが、
ホームズの現代版だということを、
今さらながら、よく象徴していると思います。
今年もそろそろディーヴァーが出る頃だなあ
と思って Amazon で調べてみたら、
やっぱり今月末に
『ソウル・イーター』というのが出るらしい。
たぶんリンカーン・ライム・シリーズの
最新作だろうと思います。
楽しみですね。